Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:治療応用1

(S313)

Checkpoint kinase 1の阻害による超音波誘発アポトーシスの増強

Inhibition of Checkpoint kinase I promote ultrasound-induced apoptosis

古澤 之裕1, 藤原 美定1, 趙 慶利1, 飯泉 天志1, 田渕 圭章2, 高崎 一朗2, 近藤 隆1

Yukihiro FURUSAWA1, Yoshisada FUJIWARA1, Qing-li ZHAO1, Takashi IIZUMI1, Yoshiaki TABUCHI2, Ichiro TAKASAKI2, Takashi KONDO1

1富山大学医学薬学研究部(医学)放射線基礎医学講座, 2富山大学生命科学先端研究センター ゲノム機能解析分野

1Department of Radiological Science, Graduate School of Medicine and Phermaceutical Science, University of Toyama, 2Division of Molecular Genetics Research, Life Science Research Center, University of Toyama

キーワード :

【目的】
超音波は,画像診断のみならずその機械的作用や熱的作用を利用することでがん治療に用いられている.超音波を細胞に照射するとDNA一本鎖切断,膜損傷やミトコンドリア損傷が引き起こされることが報告されている.更に昨年我々は,一定強度以上の超音波がDNA二本鎖切断を引き起こすことを報告した.また同時に,超音波照射した細胞においてATMやDNA-PKのリン酸化が観察され,DNA損傷応答経路の活性化が明らかとなった.しかしながらこれらDNA損傷応答経路が,超音波誘発細胞死に及ぼす影響について未だ不明な点が多い.本研究では現在臨床試験において分子標的選択的阻害薬の治験が進んでいる対象分子であるCheckpoint kinase 1 (Chk1)に着目し,Chk1の超音波誘発アポトーシスにおける役割とChk1の活性化を調節している上流のシグナル伝達経路に関する検討を行った.
【方法】
ヒトリンパ腫細胞株Jurkatに対し,Sonicmaster ES-2 (OG技研,岡山) を用いて照射した. DNA損傷を,gammaH2AXの検出と中性コメットアッセイ法によるDNAの泳動度を指標として検討した.ATM阻害剤としてKu55933,DNA-PK阻害剤としてNu7026,ATM/ATR阻害剤としてCGK733,Chk1阻害剤としてSB218078を用いた.またChk1を標的としたsiRNAを導入しChk1分子のノックダウンを試みた.細胞周期は細胞をエタノール固定後Propidium Iodideで染色し,フローサイトメトリーにて同定を行った.アポトーシスは,細胞周期解析におけるSub2N細胞の割合の変化と,ウエスタンブロット法により同定した切断型カスパーゼ3の発現の変化を指標として検討した.
【結果】
超音波照射直後においてコメットテール発現細胞の増加と,照射30分後における強度依存的なgammaH2AXの誘導を認めた.照射後ATMリン酸化,DNA-PKcsリン酸化,Chk1リン酸化がウエスタンブロットにより観察された.超音波照射下で,Ku55933前処理によりATMの自己リン酸化はほぼ消失したが,Chk1リン酸化の抑制はわずかであった.さらにNu7026前処理ではDNA-PKcsの自己リン酸化を完全に消失させた一方,Chk1リン酸化に対する抑制は全く認められなかった.しかし,ATR阻害作用を持つCGK733前処理によってChk1リン酸化の大幅な減少が認められたことから,超音波によるChk1のリン酸化はATRが主体的に,ATMが部分的に担っており,DNA-PKcsはChk1以外のシグナル伝達に関与しているものと考えられる.超音波照射6 時間後において,未処理と比較してS,G2M期,sub2Nの細胞の割合の増加が認められ,SB218078前処理によって超音波処理単独と比較してS, G2M期の相対的な減少とSub2N細胞の割合の増加,さらに切断型Caspase 3の発現上昇が認められた.siRNA導入72h後において約60%のChk1の抑制が認められ,超音波照射下でSB218078全処理と同様に,S, G2M期の細胞の減少とsub2N, 切断型caspase 3発現の上昇が認められた.
【結論】
超音波によってATR-Chk1を介した細胞周期チェックポイント機構が活性化し,超音波誘発アポトーシスを抑制していることが明らかとなった.Chk1分子標的は臨床試験において検討されている抗がん剤との併用だけでなく,超音波治療においても有望となることが期待される.