神澤 高貴, 冨沢 良介, Raj Kumar Parajuri, 三輪 空司, 山越 芳樹

Koki KANZAWA, Ryosuke TOMIZAWA, Parajuri RAJ KUMAR, Takashi MIWA, Yoshiki YAMAKOSI

群馬大学大学院工学研究科電気電子工学専攻

Department of Electronic Engineering, Graduate School of Gunma University, Faculty of Engineering

キーワード :

【目的】
ずり弾性波を用いて生体内部組織の粘弾性特性を映像化するために低周波加振を使い超音波によってドプラ計測を行う方法があるが，生体組織の構造は複雑であり組織境界等での反射や屈折により複数の伝搬波が生まれ，またこれらは3次元的に伝播する．ずり弾性波の伝播方向や速度は一般に周波数依存性があり，これらは測定上で大きな問題となる．これらを解決する方法として，今回，周波数の異なる複数のずり弾性波を同時に3次元計測できる計測システムを構成した．またFDTD法によって，任意形状の速度分布を持った媒体を仮定した波動伝播シミュレーションにより速度推定法の検討も行える．
【システム概要】
本装置では，送受信回路を2組設けており，アレイ化した4つの振動子から超音波を送受信できる構成とした．また1軸のリニアアクチュエータによってこの振動子を走査することで，測定対象内の超音波ドプラ信号の3次元計測を行うことができる．タイミング制御用のFPGAを試作し，超音波の送波を低周波振動とを同期させた．このシステムでは深さ30mm，横30mm，縦3mmのボクセル内での3次元ドプラ計測を約10秒で完了できる．信号処理として，直交検波後の信号をPC内でArc-Tangent法等を用いて組織内の変位を推定する．次に複数周波数のずり弾性波の同時検出が行えるように，変位信号を複数の加振周波数でフーリエ解析による複素変位信号推定を行い，ボクセル内でフーリエ変換を行うことで波数ベクトル推定を行う．波数ベクトル空間の原点からの位置が波長に，またベクトルの方向が伝播方向に対応しているので，複数のずり弾性波が存在してもこれらを分離して解析することができる．このような信号処理により波数スペクトラムのピークの位置から個々のずり弾性波の伝搬速度を，複数の周波数のずり弾性波が存在する場合には周波数ごとの複素変位信号から周波数依存性を評価できる．
【結果】
グラファイト粉末を超音波媒体として混入させた寒天ファントムを用いて加振周波数750Hzで実験を行った．寒天ファントムは2層で上層:1.0％，下層1.5％の寒天濃度で境界は上から20mmのところにある．図1，2はそれぞれ実験結果，FDTD法によるシミュレーション結果で位相マップを表している．推定した直達波は入射角が大きいほど，臨界条件に近づき，透過波は境界に平行に伝播しているのが確認できる．FDTD法によるシミュレーション結果においてもこの現象は見られる．