Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:弾性計測

(S311)

カプラを用いた超音波組織粘弾性特性計測の試み

Tissue Viscoelasticity Measurement using Ultrasound Coupler Gel

山川 誠1, 椎名 毅2

Makoto YAMAKAWA1, Tsuyoshi SHIINA2

1京都大学先端医工学研究ユニット, 2京都大学医学研究科

1Advanced Biomedical Engineering Research Unit, Kyoto University, 2Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

【はじめに】
 近年,超音波組織弾性イメージングの有用性が認められ,色々な分野で応用が試みられている.現在,超音波組織弾性イメージング装置で計測されるパラメータは主に歪みやヤング率(せん断弾性係数)であるが,病理状態をより詳細に評価するためにはこれらのパラメータだけではなく粘性係数も含めた粘弾性特性を総合的に評価する必要がある.一部,血管などの循環器の分野では粘性係数の計測も試みられ始めている.ただ,循環器分野では拍動により組織が振動するため特別な装置なしで粘弾性特性計測が可能であるが,その他の分野においては組織に振動を与える機構および圧力を計測するためのセンサが別途必要になる.そこで,今回,我々はパルスモータを用いてプローブ自身により組織に振動を与え,またカプラにより体表での圧力分布推定を行うことで血管以外の組織における組織粘弾性計測を試みる.
【方法と結果】
 粘弾性特性計測のためのシステムとしては超音波診断装置(Hitach EUB-8500)の7.5MHzリニアアレイプローブにパルスモータを接続し,またプローブと計測対象との間に厚さ約5mmのカプラ(ウレタンゲル,34kPa)を挟み,パルスモータにより振幅0.1mm-1.4mm,速度10mm/s-60mm/sで計測対象に対して三角波の振動を与え,同時に超音波診断装置により超音波データを計測した.まず,対象内の歪み分布計測法としては以前我々が提案した拡張複合自己相関法を用い,各点での変位ベクトルを時間追跡することで累積歪み分布を求めた.また,体表での圧力計測のため,カプラと計測対象との境界をしきい値処理およびバネモデルを用いた境界線補正により求めカプラにおける歪み分布を求めた.Kelvin-Voigtモデル解析の結果,応力と歪みの位相差,または応力と歪みの正規化ヒステリシスループの面積(ヒステリシスパラメータ)が粘性係数とヤング率の比(粘性係数/ヤング率)の関数になっており,これらから粘性係数を推定できることが確認された.そこで,寒天ファントム(周囲1%,φ9mm内包物5%)に対して計測を行ったところ,カプラの歪みと寒天ファントム内の歪みとの間に位相差が生じており,またヒステリシスループも計測することが可能であることが確認された.しかし,通常,Kelvin-Voigtモデルでは歪みの方が応力よりも遅れるのに対し,今回カプラと寒天ファントム内の歪みではカプラの歪みの逆数(カプラを弾性体と仮定した場合の推定応力)の方がファントム内の歪みよりも位相が遅れて計測された.これは今回用いたカプラが寒天ファントムよりも(粘性係数/ヤング率)の値が大きかったためと考えられる.
【結論】
 カプラを用いた粘弾性特性計測においてはカプラを弾性体としてではなく粘弾性体としてモデル化する必要がある.カプラ自体もKelvin-Voigtモデルとしてモデル解析を行ったところ,カプラのヤング率および粘性係数が既知であれば,カプラの歪みと対象の歪みとの位相差から対象の粘性特性を評価できることが確認された.また,正規化ヒステリシスループの面積を用いる場合は対象の歪み波形の位相がカプラの歪み波形よりも進んでいる場合と遅れている場合で同じ面積を取ることがあるため,位相情報も考慮すれば粘弾性特性を評価できることが確認された.今後はファントム実験および摘出組織を用いた実験により今回の組織粘弾性計測法の有効性を検証していきたい.