Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:気泡

(S310)

相変化ナノ液滴の化学作用を用いる腫瘍治療に関する基礎検討

Preliminary study for sonochemical tumor treatments with phase change nanodroplet

川畑 健一1, 浅見 玲衣1, 梅村 晋一郎2

Ken-ichi KAWABATA1, Rei ASAMI1, Shin-ichiro UMEMURA2

1日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部, 2東北大学医工学研究科

1Medical Systems Research Dept, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd., 2Dept. Biomedical Engineering, Tohoku Univ.

キーワード :

【緒言】
画像診断装置の分野において,組織選択性造影剤および造影システムの研究・開発が盛んになりつつある.超音波診断装置は,小型軽量かつ実時間撮像が可能であり,更に,治療装置としての応用も可能である.そのため,超音波による組織選択性造影剤の研究は,超早期癌診断と低侵襲な即時治療を行える早期診断・治療統合システムの実現につながるものである.我々は,このような腫瘍の診断・治療統合システムを目的とし,高い造影能を持つマイクロバブルと,高い腫瘍到達性を持つナノ微粒子のそれぞれの長所を両立するため,体内投与時はナノサイズの液滴で,超音波パルスにより目的部位のみで気化しマイクロバブルを生成する,造影剤および造影システムの開発を行っている.これまでに,相変化ナノ液滴(PCND)と名づけたこの造影剤から生成したマイクロバブルが,音響キャビテーションの核として働くと同時に,超音波加熱作用を増強可能であることを明らかにしてきた.今回は,さらに,このPCNDを核として生成する音響キャビテーションにより化学作用を生じさせ,その化学作用によりがん治療を行うための超音波照射条件についてin vitroで検討した結果について報告する.
【実験・結果】
相変化型造影剤は,以下の手順で調製した.まず,低沸点化合物としてC5F12 を,高沸点化合物としてC6F14 を用い,それらをリン脂質を用いてエマルションとする.さらに,高圧乳化処理を行い直径約400nm (静的光散乱測定)の粒径のナノ液滴を得た.この液滴を核としてキャビテーションを生じ,化学作用を生じるのに適した超音波照射条件について検討を行った.通常,キャビテーションの化学作用を得るためには定在波条件で超音波照射を行う,あるいは反応容器を照射中回転させるといった工夫が行われている.今回は,特にナノ液滴を核として生じるキャビテーションの効果を調べるために,反応容器として超音波をほぼ完全に透過する厚さ0.03mmのポリエチレンフィルムを反応容器とし,密閉条件にて超音波を照射した.周波数1.1MHzの超音波を用いて,まず,この実験系においては液滴なしでは約1kW/cm2まで強度を上げてもキャビテーションが生じないことを確認した.この系に液滴を添加することにより,約0.6 kW/cm2以上にて音響キャビテーションが生じ,かつヨウ素イオンの酸化反応を生じることがわかった.ナノ液滴をマイクロバブルに相変化させるためのパルス(1.5 kW/cm2, 100波)を用いることにより,酸化反応に必要な超音波強度がさらに低下することがわかった.この低下効果はパルスの頻度に依存し,約50Hz以上の頻度でパルスを照射することにより,酸化反応が100W/cm2以下の強度で生じることがわかった.ゲルをベースとした生体模擬ファントムでの検討により,加熱凝固作用を生じるには,パルス頻度は10Hz以上であれば十分であることがわかった.本結果は,超音波照射条件を変えることで,PCNDにより得られる効果が熱的なものか化学的なものかを変化させることが可能であることを示唆している.腫瘍治療において,腫瘍そのものあるいは腫瘍内における,血管系の発達の程度などの熱ストレスへの耐性の違いに応じて照射手法を変化させることにより,腫瘍の性状に最適な治療を行える可能性があることから,今後さらにin vivoでの検討を行う予定である.本研究の一部は,医療福祉機器研究開発制度の一環として,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により行われたものである.