Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

一般口演
基礎:気泡と造影

(S308)

組織エコーを抑圧する超音波造影イメージング手法

Ultrasound Contrast Imaging with Suppresstion of Tissue Signals

橋場 邦夫

Kunio HASHIBA

(株)日立製作所 中央研究所メディカルシステム研究部

Medical Systems Research Department, Hitachi, Ltd., Central Research Laboratory

キーワード :

【目的】
 近年,血管構造を鮮明に描出する超音波造影法は広く普及している.超音波造影画像における画質指標の一つに,造影エコー対組織エコー比(Contrast-to-Tissue Ratio;CTR)があり,例えば,血管構造を描出したいときには高いCTRの造影画像が求められることになる.この超音波造影法は,超音波造影剤からのエコーを画像化するものであり,送信超音波に対する造影剤自身の非線形応答を利用する.組織エコーも含む受信エコーから造影エコーを抽出する方法としては,Pulse Inversion(PI)法やPower Modulation(PM)法などが実用化されている.これらの手法は送信超音波の周波数成分に対する線形組織エコーを抑圧できるが,抽出したい造影エコーの周波数成分が送信超音波の高調波に相当する帯域に存在するため,同じ帯域に存在する非線形組織エコーの抑圧はできない.また,送信超音波の周波数成分の差周波に相当する非線形組織エコーも,PI法やPM法では抑圧できない.そこで本報告では,より高いCTRの超音波造影画像を得るための手法を開発することを目的に,線形及び非線形の組織エコーを抑圧して超音波造影剤由来のエコーのみを抽出する新しい超音波造影イメージング手法を提案する.また,提案した手法のCTRを数値解析及び実験によって評価し,PI法と比較する.
【方法】
 提案手法では,まず非線形組織エコーを抑圧するために,高調波及び差周波の非線形組織エコーが探触子の感度域外に発生するように送信超音波の帯域を設定する.例えば,探触子の中心周波数をf0,比帯域を80%とすれば,送信超音波の中心周波数をf0,比帯域を60%とすればよい.これに加え,提案手法では,さらにPM法を用いて線形組織エコーを抑圧する.抽出される造影エコー成分は,PM法によって抽出される送信超音波の帯域成分のみであるが,組織エコーを十分に抑圧できるため,高いCTRを得ることができる.提案手法の効果を検証するために,次のようにして,数値解析によるCTR評価を行った.まず,Keller-Miksisの方程式に基づく造影剤の超音波パルス応答解析を行い,これを造影エコー相当値とした.次に,KZKの式に基づく非線形音響伝搬解析を行い,これを組織エコー相当値とした.これらの解析を,PI法と提案手法の両シーケンスに基づいてそれぞれ行い,両者に関する造影エコー相当値の比率及び組織エコー相当値の比率から,PI法に対する提案手法のCTR改善効果を算出した.また,ソナゾイドを固定化したゲルとファントムを用い,PI法と提案手法のそれぞれのシーケンスで撮像を行って,実験的にCTR改善効果を調べた.
【結果と考察】
 PI法に対する提案手法のCTR改善効果をシミュレーションによって評価した結果,造影エコー相当値が4.7dB低下したが,組織エコー相当値が20.7dB増加し,結果としてCTRは16dB改善する結果を得た.造影エコーの低下はPM法を用いていることによるが,提案手法による非線形組織エコーの抑圧がCTRの改善に大きく寄与する結果となった.一方,低周波コンベックスプローブを用いたソナゾイドとファントムを用いた実験では,PI法に対して平均18dBの改善が得られ,提案手法の有効性が確認された.
【結論】
 超音波造影画像のCTR改善を目的に,組織エコーを抑圧する造影イメージング手法を提案し,シミュレーション及び実験によってCTR改善効果を評価した.その結果,PI法に対して大幅なCTR改善効果を得られることが分かった.