Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

奨励賞演題:産婦人科

(S299)

妊娠初期の臍帯付着部位が母体血清PAPP-A値に与える影響

Umbilical cord insertion into the lower segment of the uterus at 11-13 weeks’ gestation is associated with maternal serum PAPP-A

長谷川 潤一, 岡井 崇

Junichi HASEGAWA, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【目的】
妊娠中の母体血清PAPP-Aは,妊娠週数とともに増加するため胎盤機能を反映し,初期の低い母体血清PAPP-A濃度は胎児や胎盤の予後不良と関連すると報告されている.一方,臍帯付着部位が子宮下部に存在する症例では,胎盤や臍帯の発育不良や形態異常を起こすことが多いと知られている.妊娠11- 13 週の臍帯付着部位の違いが,母体血清PAPP-A濃度を変化させるかを知る目的で検討を行った.
【方法】
2010年1-7月,妊娠11-13週に初期の染色体異常スクリーニング目的で受診した単胎の児をもつ妊婦を対象とした.経腹プローブによる頭殿長(CRL)とNT (Nuchal translucency)の測定以外に,臍帯と胎盤の超音波断層法および子宮動脈ドプラを施行した.子宮を矢状方向に描出し,臍帯付着部位を確認し,臍帯付着部位直下の繁生絨毛(繊毛膜有毛部)の厚さ,臍帯付着部位と内子宮口の子宮壁上の距離(DIS)を測定した.それらの超音波計測を,染色体異常のリスク推定目的で使用するために採取された母体血清PAPP-A濃度と比較した.繁生絨毛の厚さおよびDISはCRLに依存するため,CRLで標準化したMoM値として示した.対象のDISが10%タイル未満の場合を内子宮口に近い臍帯付着部位(Low CI)と定義し,それ以上をNormal CIとした.すべての症例で,超音波測定は著者1名で行った.
【結果】
117症例を検討した.標準化していない繁生絨毛の厚さは母体血清PAPP-A濃度と相関 (r=0.219, p=0.017)し,DISも同様にPAPP-Aと(r=0.293, p=0.001)相関した.標準化する前の繁生絨毛の厚さ(r=0.237, p=0.010),DIS (r=0.243, p=0.008)はCRLと有意な相関を認めたが,標準化後の繁生絨毛の厚さ(MoM)とDIS(MoM)には関連を認めなかった.Low CIとNormal CI群 における標準化母体血清PAPP-A濃度 (mean±SD) は,それぞれ0.76 ± 0.34 と 1.16 ± 0.55 MoM (p=0.009)であり,Low CIでは有意にPAPP-A濃度が低かった.一方,各群における繁生絨毛の厚さ,子宮動脈ドプラ,母体背景には違いはなかった.
【考察】
子宮下部に臍帯が付着した症例においては,母体血清PAPP-A濃度の低いことが証明された.この様な症例では,妊娠11-13週においてすでに胎盤機能が低い可能性のあることが示唆された.また,臍帯付着部位の違いは妊娠初期の母体血清PAPP-A値に影響を与える因子であることから,染色体異常のリスク推定にも影響を与える可能性があると考えられた.