Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

奨励賞演題:循環器

(S293)

冠微小循環が慢性腎臓病とその早期進行に与える影響:経胸壁心エコー図による検討

Impact of Impaired Coronary Microcirculation on Chronic Renal Dysfunction and Its Early Progression

中西 弘毅1, 福田 祥大2, 島田 健永1, 宮崎 知奈美3, 前田 久美子2, 江原 省一1, 室生 卓1, 吉川 純一4, 瓦林 孝彦3, 葭山 稔1

Koki NAKANISHI1, Shota FUKUDA2, Kenei SHIMADA1, Chinami MIYAZAKI3, Kumiko MAEDA2, Shoichi EHARA1, Takashi MURO1, Junichi YOSHIKAWA4, Takahiko KAWARABAYASHI3, Minoru YOSHIYAMA1

1大阪市立大学大学院循環器病態内科学, 2大阪掖済会病院循環器内科, 3東住吉森本病院循環器内科, 4西宮渡辺病院心臓血管センター

1Department of Internal Medicine and Cardiology, Osaka City University Graduate School of Medicine, 2Department of Cardiovascular Medicine, Osaka Ekisaikai Hospital, 3Department of Cardiovascular Medicine, Higashisumiyoshi Morimoto Hospital, 4Cardiovascular Center, Nishinomiya Watanabe Hospital

キーワード :

【背景】
慢性腎臓病(CKD)が,心血管イベントの独立した危険因子であることは明らかである.その機序として,酸化ストレス,炎症,Ca-P代謝異常,血管内皮機能障害などが挙げられ,心血管疾患となんらかの共通基盤を有する可能性がある.正常な内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)は動脈硬化病変の形成に必要な細胞の融合,移動,増殖反応を抑制する.血管内皮機能不全に伴うNO産生の低下は微小循環障害をきたし,心血管疾患の発症に深く寄与している.一方,腎血管床で産生されるNOは腎血流の保持に重要な役割を果たしており,腎血流の1/3はNO依存性であると推測されている.CKD例ではNO産生が低下しており,腎機能の低下に伴ってさらに増悪する.冠血流予備能(CFR)は冠動脈狭窄の程度と冠微小循環を反映する.よって,冠動脈に狭窄を認めない状態において,CFRは冠微小循環の指標であるとともに内皮機能の指標である可能性がある.経胸壁心エコー図(TTDE)の進歩によって,冠動脈左前下行枝(LAD)のCFRが生理的かつ非侵襲的に測定できる.本研究では,CKDの程度とCFRが相関するか否か,またCFRがCKDの早期進行の予測に有用であるか否かを検討した.
【方法】
対象は心臓カテーテル検査または冠動脈CTによって左前下行枝に50%以上の狭窄がないことが確認された107例(男性70例,平均年齢67±11歳)である.前壁心筋梗塞の既往,LADに対する血行再建術の既往例,中等度以上の弁膜症例,心筋症例,維持透析例は除外した.全例でTTDEを用いて,LADのCFRを計測した.TTDE検査はシーメンス社製Sequoia 512またはGE社製Vivid 7を用いた.左室長軸像の前室間溝にカラードプラの関心領域を設定し,LAD末梢側の血流を描出した.同部位にパルスドプラの関心領域を設定し,冠動脈血流速度を得た.安静時とATP投与による冠拡張時の平均拡張期血流速度の比から,CFRを算出した.糸球体濾過量(eGFR)はCockroft-Gaultの式を用いて算出した.さらにCFR検査の1年後の血液データを得られた46症例に対してCFRの数値とCKDの進行について評価を行った.
【結果】
eGFRはCFRと有意に相関した(r = 0.50).多変量解析の結果,eGFRの独立した規定因子は,年齢(p = 0.01)とアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬の内服(p = 0.01),CFR(p < 0.001)であった.またCFR < 3.0群ではCFR ≥ 3.0群と比較して,1年後のeGFRは有意に低下していた(-7.0ml/min/1.73m2/year vs -1.4ml/min/1.73m2/year,p = 0.02).
【結論】
今回の検討によって,CFRはeGFRと相関し,1年後のeGFRの変化予測に有用である可能性が示唆された.CKDにおける心血管イベントの発症に心筋微小循環の障害が関与しており,TTDEによりCFRを測定することは心腎相関の病態の解明に重要な情報を提供すると共に,CKD患者のリスク層別化を可能とし,より積極的な治療介入適応の判断に有用である可能性がある.