Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

外国留学経験者による講演3:体表

(S288)

イタリアにおける乳がん治療と超音波の役割

Breast cancer treatment and role of ultrasound in Italy

榎戸 克年

Katsutoshi ENOKIDO

昭和大学病院乳腺外科

Department of Breast Surgical Oncology, Showa University Hospital

キーワード :

European Institute of Oncologyは1994年に設立されたイタリアのがんセンターで,乳がん手術は年間3500例を超えるhigh volume centerである.多くの臨床試験が行われており,イタリアをはじめヨーロッパにおける乳がん治療の中心的役割を果たしている.
 イタリア・ミラノにあるがんセンター・European Institute of Oncology(EIO)の乳腺外科にクリニカルフェローとして留学した.多くの留学生が言葉や習慣の違いに苦労しながら海外での研修を行っているが,今回はイタリアにおける乳がん治療や超音波の役割ともにイタリア生活での体験についても述べたい.
 イタリアでは年間約32,000人(11人に1人)が乳がんに罹患し,他の欧米諸国同様に高い罹患率ではあるが,死亡率は1990年前後をピークに減少している.スクリーニングプログラム,薬物療法の進歩などが寄与していると考えられるが,ヨーロッパでは2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されており,受診率は59%と日本と比較して受診率は高い.本人の希望や有症状の場合には個別に超音波が行われるが,超音波を用いたスクリーニングは行われていない.超音波を用いたスクリーニングの臨床試験が日本(J-START)だけではなくイタリア(RiBES)でも行われており,その結果はヨーロッパでも注目されているが,この臨床試験で有効性が認められない限り超音波を用いた乳がん検診は行われないと思われる.
 画像診断の結果はBI-RADSを用いて評価されている.欧米と日本ではカテゴリ分類とそのマネージメントが異なっており,特にカテゴリ3の病変は,欧米では「がん」の確率は2%以下であることから経過観察が推奨されている.しかし近年のヨーロッパではカテゴリ3の対応が議論の対象となっており,従来の経過観察ではなく,超音波やMRIを用いた再評価や生検が行われる傾向にある.
 スクリーニングやプライベートクリニックなどで見つかった乳がんは,地域の総合病院やイタリアにある7か所のがんセンターを中心に治療が行われる.EIOでは年間3,500例以上の乳がん手術が行われ,イタリアにおける乳がん治療の中心的役割を担っている.従来は術式の決定をマンモグラフィ,超音波所見で行っていたが,近年はMRIの普及により多発病変や対側病変が見つかるようになったため,両側手術や乳房切除術(+乳房再建)の割合が増加した.そのため1日に行う手術件数が減少し,2006年をピークに年間の手術件数は減少している.またMRIの進歩は著しく,バイオマーカーとしての役割が期待されるなどMRIが手術や薬物療法の決定に際して大きな役割を担うようになっているが,外科的治療における超音波の役割はいまだ大きい.特にMRIで見つかった副病変に対する2nd-look ultrasoundは重要である.副病変が同定できた場合にはエラストグラフィで評価することも行っているが,エラストグラフィの知見も蓄積されてきており,第5版BI-RADSでエラストグラフィ所見が挿入される予定となっている.
 日本は外科治療や薬物療法の分野で世界から遅れをとっているが,超音波をはじめとする画像診断領域においては世界をリードする立場にある.現在はBI-RADSなど国際的な用語や診断基準で隔たりを認めるが,その隔たりを解消し国際化していくことで,今後も画像診断領域の更なる活躍が期待できると考える.