Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

外国留学経験者による講演3:産婦人科

(S287)

妊婦健診における超音波検査の位置づけについて思うこと  〜Bologna大学・産婦人科留学報告〜

Role of ultrasonography in check up for pregnant women in Europe

長谷川 潤一

Junichi HASEGAWA

昭和大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

北イタリアのエミリア・ロマーニャ州にあるボローニャは人口40万の都市で,古くより学問,芸術文化,食文化,工業がさかんです.その中心のボローニャ大学は,創立1088年でヨーロッパ最古の大学と言われています.大学病院は,イタリアの中でも大きな病院で,30にも各科ごとに建物が分かれていて,その産婦人科に留学してきました.
 ヨーロッパのほうでは,医師も含めて年間に休暇が5週間ぐらいあるのが普通だそうです.ですが,医療水準も医学研究も世界をリードしているのも事実です.一方日本は,朝から晩まで少ない休暇で働いて,やっと彼らに追従しているように感じます.そのやり方に何が違うのか?イタリアの臨床現場に滞在して,実際に肌に感じたこと,我々にも取り入れることが可能なことは何かと考えたことをお話ししようと思っています.
 私は,ボローニャ大学産婦人科,その中でも超音波画像診断部門に主に滞在し,自らの臨床研究を行いながら,産婦人科医療全般を見てきました.滞在前は超音波医学のspecialistのいる所へ行くのですから,どんな素晴らしい設備や医療の現場に行くのかと楽しみにしていましたが,意外と地味だという第一印象を受けました.超音波機器は我々の使うものと同じものです.日本に比べたら超音波の設置台数は少ないかもしれません.ですが,臨床現場での超音波検査の位置づけはかなり違うものだということを徐々に感じるようになりました.まず,何かあればとりあえず超音波をやってみるといった外来のスタンスはありません.超音波検査が必要であれば,患者さんは超音波検査部門にまわされ,そこを専門にする医師らが検査を施行して超音波診断のみを下し,精確なレポートをつけて依頼元に返すのです.日本でCTなどの画像診断を依頼するのと全く同じです.また,日本でも妊娠中期の胎児精密超音波検査が普及してきましたが,通常の妊婦健診の延長線上にある我々のその位置づけとも違います.毎回の健診で超音波検査はしませんので,中期の精密検査の次の外来で超音波検査の予定はありません.1回の検査で,確認すべき項目全てを確認しなければならないのです.胎位が悪ければ1時間待ってでも,粘り強くやります.もちろん患者さんも半日がかりで大変ですが,精確な診断を享受するために頑張るという信頼関係があります.
 時間が余っているからそのような体制が可能なのだと考えられがちかもしれませんが,予後を悪くせず,少ない健診でも様々な異常を見つけるためのディスカッションも多くされています.今後の妊娠・分娩における異常症例を抽出(予測)するために行う超音波検査の位置づけも非常に重要なのであります.Nuchal translucencyはその代表ですが,その他,子宮動脈血流波形からの胎児発育遅延,妊娠高血圧症候群の予測なども精密超音波検査に組まれ,後の健診を密にするかどうかの判断に用いられています.
 精確な形態学的異常の診断と,後の妊娠・分娩のハイリスク症例の抽出がうまくいけば,妊婦健診に医師が多くの時間をかけなくてすむのではないかと考えます.超音波検査で確認する項目は,決して我々が知っていること以上のことはありません.技術的に難しいことではなく,地道に描出させるトレーニングを積むことと,どれだけのモチベーションでそれらを根気よく確認するかが重要かと思います.より精確な超音波診断ができれば,その検査に必要な時間を圧迫する不要な超音波検査を減らすことができるのではないでしょうか.欧米とは少し異なる超音波健診の日本でも,低い周産期死亡率であることの良さを残しつつ,海外の良い部分を取り入れるのが良いと思いました.超音波検査の重心の置き方を変えることは,産婦人科医療窮迫の改善,産婦人科医のQOLの向上の一助になるのではないでしょうか.