Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画32 産婦人科:産婦人科領域における超音波治療

(S276)

低侵襲胎児外科治療における超音波技術

Ultrasound technology in Minimal Invasive Fetal Surgery

千葉 敏雄

Toshio CHIBA

国立成育医療研究センター臨床研究センター

Clinical Research Center, National Center for Child Health and Development

キーワード :

【背景・目的】
当研究センターでは,出生前の早期に診断が可能な子宮内胎児の疾患を治療,もしくはその疾患が増悪するのを防ぐことを目的とし,より低侵襲な超音波技術の導入を進めている.現行の超音波技術は専らエコー診断のために使用されているが,患者の体表面から非接触に患部への物理的振動の刺激を与えることのできる高周波数の超音波は,様々な治療機器としての可能性を有している.本発表では我々が進めている,1)超音波を用いた胎児期遺伝子治療と,2)集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound; HIFU)による胎児心房中隔開窓術の試みを紹介する.
【方法・結果】
1)超音波を用いた胎児期遺伝子治療としては,先天性代謝異常の治療を目指している.先天性代謝異常は先天的な異常により酵素が正常に機能しない,あるいは酵素が欠損している病態である.症状は様々であるが,体内で特定の酵素が産生されない,もしくは機能しないため代謝機能が働かず,その結果分解されない酵素が蓄積し,発達障害や意識障害・心身発達遅延を引き起こし,死亡する例も少なく無い.母体内では母親が胎児の代謝機能を補っているが,出生後は母親からの代償機構から離れるため症状の重篤化が予想される.そこで胎児期に特定の遺伝子をコードしたプラスミドを低侵襲な超音波を用いて導入することにより,一過性ではあるが欠損している酵素タンパク質を発現させ,出生後の危機的な状況を脱し,臓器移植までの橋渡しとなる治療の開発を行っている.これまでに我々は,妊娠マウス子宮外からの超音波照射により,マウス胎仔肝臓への遺伝子導入に成功している.2)HIFUによる低侵襲治療としては,左心低形成(hypoplastic left heart syndrome; HLHS)などの胎児心形態異常の治療,例えば心房中隔開窓術に対して,超音波画像から心房中隔の位置と心拍の周期性を導き,非接触のエネルギー集中と生体組織の穿孔可能なHIFUを自動照射するシステムを開発している.HIFU照射用トランスデューサに固定した2D超音波プローブで胎児心の四腔面超音波断層画像を得て,左心室の面積と重心の情報を手掛かりとして,画像的に特徴の無い心房中隔の位置を間接的に同定する.同時に心拍数と左心室拡大収縮の状態判定(周期解析)を行ない,拍動する心房中隔位置を自動追尾して間欠的にHIFU照射を行う.これまでに子宮内の胎児を想定し,シリコンシートを底部に張った水槽越しに,開胸した麻酔下のウサギの心房中隔に対してHIFU照射を行っている.心拍のタイミングに合わせて合計3秒間照射した後に摘出心を観察したところ,心臓の表面を傷つけることなく,心房中隔近傍の焼灼痕および貫通穴を確認している.
【結語】
現在はこれらの技術の更なる低侵襲化を目指し,近未来の超音波胎児治療システム実現の為,改善・拡張を進めているところである.