Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画31 領域横断:超音波の診断基準を論じる

(S271)

医用超音波用語の諸問題

Various technical terminological problems in sonographic diagnosis

宮本 幸夫

Yukio MIYAMOTO

東京慈恵会医科大学放射線医学講座,超音波診断センター

Depatment of Radiology, The Jikei University School of Medicine, Diagnostic Ultrasound Center The Jikei University Hospital

キーワード :

1.はじめに
 新しい超音波用語の誕生や新しい診断基準やガイドラインの作成や普及自体は,医用超音波分野の発展の成果でもあり歓迎すべきことではあるが,一方で,各分野における用語の定義における統一性の乱れや,その誤謬など,様々な混乱来してきていることはよく知られて利,憂慮すべき問題と考えられる.
 本稿では,こうした問題の1例として,日本超音波医学会と密接な関係にある日本乳腺甲状腺超音波診断会議(JABTS)から昨年上梓された 乳房超音波診断ガイドライン(JABTS編 南江堂)改訂版(以下JABTSガイドライン)1,2)などをとりあげた.
2.用語の定義2-1 「腫瘤」という用語の定義
 腫瘤像形成性膵炎というような用いられ方は画像診断領域で一般化したものであり,その上で,あえてindistinked(ill-defined)mass つまり,境界不明瞭な腫瘤という概念とほぼ同じ意味で腫瘤像非形成性病変という言葉を用いようとすることは,いたずらに混乱を招くものと思われる.さらにJABTS1,2)ガイドラインや日超医における乳腺超音波診断のためのガイドライン3)における分類は,spiculated Marginsをあえて外しているにも関わらず,その理由が全く明示されていないため,不自然なもの,あるいは違和感を持つものとの批判も多い.
2-2 形状の表現の仕方
 例えば,腫瘤性病変の場合,その形状に関しては,一般的には腫瘤全体を概観した上で,おおまかに捉えられた印象をもとに記載される.その形状の表現に関しては,通常,形状整・形状不整に2分され,前者は円形(球形:round)あるいは卵円形(oval)を呈するものであり,それ以外は全て形状不整として一括されることが多い4).したがって,いわゆる,分葉形,多角形,地図状,カリフラワー状などといった表現は全て形状不整に包含されることになる.凹凸不整(knobby)というような表現も,境界や輪郭の性状を表現するものであるとともに,形状不整に包含される表現の一つでもある.一方,既出のJABTSガイドライン1,2)における定義では,形状を整:円形(球形:round)あるいは卵円形(oval),分葉形,多角形,および不整形に区分している.分葉形と多角形はかどとくびれの有無により区分し,かどとくびれの両者を持つもののみを形状不整と定義している.かどとくびれの有無により,分葉形と多角形を区分することは絶妙なアイデアではあるが,画像診断における一般的な形状区分においてはいずれも形状不整に分類されることが常であり,その意味においてこの形状表現に関する用語の定義は,他の領域における用語の定義とは異なりJABTS独自のものである.形状の分類のような,他の領域でも登場するような事柄に関しては,徒に議論の混乱を招かないためにも,出来る限り,領域横断的に共通の用語が用いられることが望ましい.
2-3 エコーレベルの定義
 エコーレベルは相対的なものであるため,一般的には同一深度で隣接する組織と比較して評価される.一方,JABTS ガイドラインでは,エコーレベルを同一深度ではないより表層の皮下脂肪層と比較して表現することになっており,その程度も,高,等,低,極低,無に区分している.なお,極低の定義は無エコーと区別が困難なほどに低いエコーレベルということになっている.実はこのエコーレベルの区分は,JABTS乳房ガイドライン独自のものであり,一般的なエコーレベルの表現とは定義が異なる.このエコ-レベルの表現法は,他の領域の超音波像におけるエコーレベルの評価法に比して,著しく異なる評価の仕方であり,もしガイドラインとしてその方法を採用するのであれば,その背景についてきちんとした解説が付されてしかるべきものと思われる.
 さらに,記述した極低(ごくてい)という言葉は,髄様癌,悪性リンパ腫,硬癌,充実腺管癌などのきわめて低いエコーレベルを呈する病変を意識して,用いられたカテゴリーと思われるが,極低(ごくてい)という言葉の語感に日本語として不自然であると感ずる人が少なからずいることは様々な機会に議論されていることである.
 この他,以下の点すなわち,3.不自然な用語の使用(構築の乱れ:architectual distortion)4.腫瘤サイズ計測法5.解剖学用語の誤用6.用語の名称変更.7.その他においても様々な点で,乳房超音波診断ガイドライン(JABTS編 南江堂)改訂版(以下JABTSガイドライン)1, 2における用語の定義などに関して問題が指摘されている.
3.日本超音波医学会の役割
 今回はたまたまJABTSガイドラインを例にとって概説したが,このような乱れた超音波用語は,乳房に限るものではない.したがって,日本超音波医学会の用語診断基準委員会は,この種の問題に対して注意を怠らず,不適切な状況に対しては迅速に対応する姿勢が求められる.超音波用語の定義に関しては,その用語が可能な限り各領域横断的に共通なものであるべきであり,極力例外的な使用を避ける努力が払われなければならない.また,用語を提唱した原著を尊ぶ姿勢を学会自体が強力にサポートすることも大切である.