Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画30 循環器:動脈と心室の関係(拡張期心不全 あるいは 拡張不全心を含む)

(S269)

血管スティフネスの増大は直接的に心形態,拡張機能を変化させる

Direct Relation between Elevated Vascular Stiffness and Cardiac Structural and Diastolic Functional Abnormality

竹田 泰治1, 坂田 泰史1, 真野 敏昭1, 大谷 朋仁1, 倉谷 徹2, 澤 芳樹2, 山本 一博1, 小室 一成1

Yasuharu TAKEDA1, Yasushi SAKATA1, Toshiaki MANO1, Tomohito OHTANI1, Toru KURATANI2, Yoshiki SAWA2, Kazuhiro YAMAMOTO1, Issei KOMURO1

1大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学, 2大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学

1Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, 2Department of Cardiovascular Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine

キーワード :

心不全症例の約40%は左室収縮障害を認めない,あるいは認めてもごく軽度な障害に限られており,heart failure with preserved ejection fraction(HFPEF)と呼ばれる.HFPEFでは血管の機能的硬化を伴っていることが報告されている.また,我々もEFの保たれた高血圧を有する症例を対象とする検討においても,心不全発症に脈波伝播速度で示される血管スティフネスの上昇が伴っていることについて報告している.以上のように,HFPEFと血管機能の間には何らかの関与が示唆されるが,血管機能異常が心不全発症に直接関与するか否かは明らかではない.その主たる理由は,臨床的に血圧を上昇させずに血管機能のみを変化させる負荷方法がなかったためである.ステントグラフト内挿術(EVAR)は治療件数を増加させている胸部,腹部あるいは胸腹部大動脈瘤に対する低侵襲治療であり,直接的に血管機能のみに影響を与えるものである.我々はEVAR施行後に心不全を発症する症例を経験し,その症例の脈波伝播速度が著しく高値であったことから,心不全を発症したのはEVAR後に血管機能が変化し,左室に負荷を与えた結果であると考えた.この臨床症例の経験により,EVARを施行する患者群を対象に,治療前と治療後亜急性期に血管機能が変化するか否か,血管機能の変化に伴い心形態,心機能が変化するか否かを検討した.胸部,腹部あるいは胸腹部大動脈瘤に対し,EVARを施行した連続45症例(平均年齢;72±7歳,男性の比率71%,平均ステント長16.7cm,胸部大動脈瘤9例,胸腹部大動脈瘤2例,腹部大動脈瘤34例)を対象とし,術前,術後約1週間という亜急性期に心エコー検査,血圧,脈波伝播速度の測定を行った.解離性大動脈瘤,中等度以上の弁膜症,維持透析,左室駆出率40%未満,虚血が残存する症例は除外した.術前後で,血圧は軽度なるも有意に低下 (術前:131±15mmHg,術後:126±15mmHg,p<0.05)したが,脈波伝播速度は有意に上昇(術前:1905±380 cm/sec,,術後2082±448 cm/sec.,p<0.05)した.また,血圧の上昇を認めないにもかかわらず,左室重量(術前:156±40g,術後:165±41g,p<0.05),左房容積(術前:50±16ml,術後:55±17ml,p<0.05)は,術前に比し,術後に有意な増大を認めた.さらに,脈波伝播速度の変化と,左室重量の変化には有意な相関関係を認めた(R=0.34, p<0.05).なお,約1年後の術後慢性期にも左室重量,左房容積の変化は残存していることを確認している.以上の通り,EVAR後短期間でも,血圧上昇なしに,血管スティフネスの上昇を認め,それに伴う左室肥大および左室拡張性の障害(左房拡大)を確認することができ,慢性期においても,それが継続することを示した.この結果により,日常診療で測定される末梢血圧とは独立した機序で血管機能は左室形態や機能に影響を与えうるということが示された.