大手 信之¹, 若見 和明¹, 成田 ひとみ²

Nobuyuki OHTE¹, Kazuaki WAKAMI¹, Hitomi NARITA²

¹名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科学, ²名古屋市総合リハビリテーションセンター内科

¹Cardio-Renal Medicine and Hypertension, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, ²Internal Medicine, Nagoya City Sports and Rehabilitation Center

キーワード :

wave intensity （WI）は，循環系の関心領域において観察された圧（P）と流速（U）の時間微分値であるdP/dtとdU/dtの積で与えられる．血管内圧波形を非観血的に求めるのは容易ではないが，エコートラッキング法（アロカ社製eTracking^TM）を用いて血管径変化を高時間分解能下に求め，上腕動脈における最高・最低血圧値で較正することにより内圧変化に変換しdP/dtを求めることが可能である．一方，ドプラ法によって比較的容易にdU/dtを求めることができる．左室機能をWIによって評価するためには，なるべく左室に近い上行大動脈を関心領域としてWIを評価したいが上行大動脈は体表面から遠く，比較的低周波数の超音波を使って関心領域を観察することになるので高精度の血管径および血流情報の収集は難しい．そこで上行大動脈と解剖学的に近接し，また体表面から近い右総頸動脈でWIを求めた．頸動脈におけるWIが左室収縮早期と収縮終期に陽性のピーク（それぞれの波高をW₁，W₂とする）を形成することは良く知られている．われわれはW₁が左室の収縮性を反映しpeak +dP/dtと良好な相関を示すことを報告するとともに，W₂の規定因子について検討してきた．W₂は大動脈圧波形のdicrotic notchの直前かほぼ一致した時相で観察される．この時相では，大動脈弁はまだ開いているが，左室では心尖部からすでに弛緩が始まっており，左室は収縮を維持する張力を失い始めている．このとき，上行大動脈血流はなお順行性に流れているものの左室壁張力の低下に伴って減速を開始しており，dU/dtは負の値となる．その影響で上行大動脈血圧は低下し，右総頸動脈におけるdP/dtは負の値となる．ここでdP/dt・dU/dtは負x負で正の値となる．これは左室弛緩の開始に伴って生じた脈波（膨張波）が左室から大動脈側へ伝播していることを意味する．すなわち，左室は大動脈血流を積極的に止め，大動脈弁を閉めようとしているわけである．我々は，収縮後期大動脈血流が慣性力を有する症例で慣性力を有さない症例に比べてW₂が有意に高値であるとの結果を得た．またW₂は左室弛緩時定数τと有意な負相関関係を呈した．これよりW₂が，収縮末期の大動脈血流の減速，大動脈弁閉鎖に関係するだけではなく，収縮後期大動脈血流の慣性力の大きさと関係する指標であり，左室elastic recoilや左室弛緩にも密接に関係する指標であることが判明した．
文献
1）Ohte N, et al. Clinical usefulness of carotid arterial wave intensity in assessing left ventricular systolic and diastolic performance. Heart Vessels 2003;18:107-111
2）Yoshida T, Ohte N et al. Lack of inertia force of late systolic aortic flow is a cause of left ventricular isolated diastolic dysfunction in patients with coronary artery disease. J Am Coll Cardiol 2006;48:983-991