Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画23 領域横断:あなたの超音波検査は安全ですか?

(S238)

超音波診断装置の安全性について

Safety of diagnostic ultrasound equipment

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【まえがき】
 超音波診断装置は,高い安全性を有する無侵襲診断法として広く使われ,我々に多くの恩恵をもたらしてきた.特にこの10年間は,造影診断や組織弾性診断などの技術が長足の進歩を遂げ,超音波診断の重要性はさらに拡大している.一方,超音波安全性の観点から見ると,超音波集束技術の進歩により局所的な超音波の強度は上昇する傾向にある.また,診断機能の拡大に伴い様々な超音波照射条件が用いられるようになってきており,診断における超音波の安全性が再び関心を集めている.
【超音波の生体作用とTI, MI】
 超音波が生体に与える作用は,熱的な作用とそれ以外の作用(非熱的作用)に分類される.加熱作用は,超音波の伝搬過程で生体組織が音響エネルギーを吸収することにより生じる.また,非熱的作用としては,超音波の振動や放射圧による機械的な作用があげられる.また,イナーシャルキャビテーションが生じる条件では,マイクロジェットや衝撃波による激しい機械的作用や,水分子の熱分解によって生じるOHラジカルがもたらす音響化学効果などが生じる.
 一般に超音波の出力は強さやパワーを用いて表現されるが,超音波診断に使われる照射条件では,これらのパラメータが作用の程度を直接反映しない.例えば,熱の上昇は基本的に超音波の強さに依存するが,生体組織の構造や超音波ビームの幅とスキャン方式などにも依存する.また,非熱的作用に関して重要な役割を果たすイナーシャルキャビテーションは,超音波の負圧の最大値がある閾値を越えた条件で発生する.そこで,温度上昇の程度とキャビテーション発生の可能性をそれぞれ単一のパラメータで表すことができる新しい指標が考案された.これがthermal index (TI)とmechanical index (MI)である.操作者は,装置画面上にリアルタイム表示されるこれらの指標を参考に,適切な診断ができる最小の超音波出力を選択することが求められている.
【超音波診断装置の規格】
 国際電気標準会議(IEC, International Electrotechnical Commission)の2つの技術委員会,TC62(医用電子機器)とTC87(超音波)が超音波診断装置の国際規格の作成を行っている.国内で販売される医用電子機器は日本工業規格(JIS)を満たす必要があるが,国際協調の流れのもと,IEC規格を翻訳して国内規格に用いる動きが進められている.超音波診断装置の分野においても,全ての医用電子機器が共通して守るべき医用電気機器の安全通則(IEC 60601-1)と,超音波診断装置の安全性に関する個別規格(IEC 60601-237)に関するIEC規格が邦訳され,JISとして使われている.
 TIやMIを求める方法は,当初米国のODS(Standard for Real-Time Display of Thermal and Mechanical Indices on Diagnostic Ultrasound Equipment)で規格化され,現在ではIEC規格に取り込まれている.これらの指標は,水中での音圧計測値を基に計算される.TIについては,生体内での温度上昇をより正しく推定できるよう計算方法の改良が常に検討されている.また,超音波造影剤を適切に使うための指標の創設も検討が開始されている.
【おわりに】
 自動車の性能向上はめざましい.事故の可能性も増加したが,様々な仕組みによりこれを防ぐ試みがなされている.スピードメータはその最も基本的な仕組みであり,これが壊れた自動車に乗ろうとする人はいない.超音波診断装置を使用する場合も,TIとMIをスピードメータとして現在の超音波出力を心に留め,常にALARA(as low as reasonably achievable)の原則に則って超音波診断を行っていく必要がある.