Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画22 循環器:大動脈弁疾患の評価と手術適応を考える

(S236)

大動脈弁閉鎖不全症治療の新しい展開:超音波による弁形成・自己弁温存手術の適応決定

Role of echocardiography to determine an indication of aortic valve repair and valve sparing operation in patients with chronic aortic regurgitation

川合 宏哉

Hiroya KAWAI

神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野

Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

従来,外科治療法を考慮した大動脈弁閉鎖不全症の成因分類として,大動脈弁自体の病変による弁閉鎖不全,大動脈基部の拡大による弁閉鎖不全,大動脈解離による弁交連部の支持機能不全による弁閉鎖不全に分けられてきた.そして,大動脈弁自体の病変が主体である症例に対しては大動脈弁置換術,大動脈基部拡大や弁交連部の支持機能不全が主体である症例に対しては,Bentall手術を代表とする人工弁付き大動脈グラフトによる置換術が行われてきた.近年,後者の中で大動脈弁がほぼ正常か軽度な病変の症例に対して,自己大動脈弁を温存して大動脈基部置換を行う手術が行われ始めた.さらに術式の工夫,術者の技術向上により,大動脈弁病変が存在する場合にも大動脈弁形成術を行うことにより自己弁を温存することが可能になってきた.このように大動脈弁形成術の適応拡大に伴い,術前に大動脈弁を詳細に評価する必要性が高まっている.そこで,新たな大動脈弁閉鎖不全症の成因分類が提唱された.この分類は,大動脈弁の開放・閉鎖という正常の機能が大動脈弁弁尖のみで作動するものではなく,機能的大動脈弁複合体(functional aortic valve unit)が統合的に作動することで機能するという概念に基づく.機能的大動脈弁複合体は,大動脈弁輪部,大動脈弁弁尖,バルサルバ洞,大動脈弁交連部,バルサルバ洞・上行大動脈接合部(sino-tubular junction; STJ)で構成される.この概念は僧帽弁複合体が僧帽弁輪部,僧帽弁尖,腱索,乳頭筋,乳頭筋付着部周囲の左室心筋で構成される考え方と同様のものである.大動脈弁閉鎖不全症はこの機能的大動脈弁複合体の異常によって起こる,と捉えられる.そして,弁尖の形状ならびに動きにより大動脈弁閉鎖不全症を3型に分類する.Ⅰ型は大動脈弁弁尖は正常(normal cusp)でかつ大動脈基部拡大により生じる大動脈弁閉鎖不全である.Ⅱ型は大動脈弁弁尖運動が過剰であること(excess cusp motion)を特徴とし,大動脈弁逸脱や大動脈弁有窓化(fenestration)がこのⅡ型に属する.Ⅱ型は大動脈弁の病変は存在するものの,弁尖組織の変化は少なく,構造が比較的良好に保持されている大動脈弁閉鎖不全である.Ⅲ型は弁尖運動が制限されていること(restricted cusp motion)を特徴とし,リウマチ性や退行変性による大動脈弁がこのⅢ型に属し,弁尖組織の変化は高度であり弁の退縮や線維化・石灰化を高度に有する.この分類においてⅠ型は自己弁温存手術が選択され,Ⅲ型の多くは人工弁置換術が選択される.そして,Ⅱ型の多くが大動脈弁に対する手術において形成術が選択され,自己弁温存が可能となりつつある.注意すべき項目は,僧帽弁と異なり大動脈弁の逸脱の成因は粘液腫様変性のみではなく,先天性二尖弁,有窓化(fenestration),限局性大動脈解離などの病変によっても逸脱の形態を示すことである.もう一つの注意すべき項目は,大動脈基部拡大における逆流の重症度はバルサルバ洞・上行大動脈接合部(STJ)の拡大の程度に関連しており,同部位の拡大がバルサルバ洞の拡大病変から進展したものか上行大動脈の拡大病変が及んだものかを判別することである.このような機能的大動脈弁複合体の評価に経食道心エコー図検査は必須かつ重要である.本講演では,機能的大動脈弁複合体の概念を概説し,特にⅡ型病変の評価における経食道心エコー図検査の有用性を述べる.