Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画21 循環器:心臓再同期療法における心エコーの役割

(S228)

組織ドプラ法,スペックルトラッキングでとらえるdyssynchrony

Assessment of Mechanical Dyssynchrony by Tissue Doppler and Speckle Tracking

宮崎 知奈美

Chinami MIYAZAKI

東住吉森本病院循環器内科

Department of Cardiovascular Medicine, Higashisumiyoshi Morimoto Hospital

キーワード :

 心室再同期療法(CRT)の主なメカニズムは左室内のdyssynchronyを再同期させることであることから,左室内のdyssynchronyを定量することができれば,CRTの選択に役立つと考えられてきた.人間の目は収縮の程度を捉えることは得意であるが,時相のずれを分析するのには敏感ではない.そこでtissue velocityやストレインといったモダリティがdyssynchronyの定量に応用されてきた.
 まず注目されたのはtissue velocityである.分画ごとでピークの時間差や標準偏差をとり,Septal-laterel delay, opposing wall delay, Yu indexなどの指標とすることで,CRTの効果予測に有用であるという報告が相次いだ.しかし多施設共同研究であるPROSPECT studyではtissue velocityを使用したdyssynchrony指標ではCRTの効果を予測することはできないとの結論に至った.PROSPECT studyでは施設間での測定のばらつきが大きかったこと,使用装置が統一されていなかったこと,画質不良例が多かったことなどの技術的な問題が批判の対象となっている.しかし逆に,それらの技術的な問題も含めても使用に耐えうる指標でなければ実臨床では使えない.またどんなに精度よくtissue velocityを測定できたとしても,tissue velocityには受動運動にも左右されるという問題がある.PROSPECTの結果はこのようなtissue velocityの技術的及び理論的限界を表していると考えられる.
 Tissue velocity の欠点を補う手段として,現在ではストレインに基づいたdyssynchrony指標が提唱されている.longitudinal strainやcircumferential stainよりもradial strainやtransverse strainを用いた指標がより優れていると報告されている.またradial strainの前壁中隔と後壁のピークの時間差がCRT後の左室容量の改善や予後に強く関連しているというデータが今のところ最もエビデンスがある.
 Tissue velocityであれストレインであれ,ピークのタイミングのみに頼るdyssynchrony指標にはいくつかの問題点がある.複数のピークのうちどのピークを選択するかにより,dyssynchronyの重症度が大きく変わってしまうことがある.またピークの時間差は同じでも局所心筋の収縮能によりCRTによる改善は異なるはずである.タイミングのずれよりも非同期による無駄な心筋収縮の程度を定量した方がCRTの効果と関連するとの報告もあり,今後CRTの効果を予測する因子はdyssynchrony 指標からdiscoordination指標へと移っていく可能性がある.一方でdiscoordinationの定量はピークの時間差を測定するより複雑であり,全ての患者にこのような複雑な定量法が必要かどうかは疑問である.単純な指標で判定できる例には必要ないかもしれず,QRS幅,左室伝導障害のパターン,虚血性心疾患の有無などの患者背景によってもdyssynchrony定量の必要度が変わってくるかもしれない.
 本セッションでは,tissue velocity, 及びstrainを用いたdyssynchrony 指標の現状をレビューし,その有用性と限界について考察する.