Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画20 産婦人科:胎児心エコー −次の十年に向けて−

(S225)

先天性心疾患の胎児診断率の推移からみた胎児診断の現状と今後の課題

Change of Fetal Diagnosis of Congenital Heart Defect:now and future

川瀧 元良

Motoyoshi KAWATAKI

神奈川県立こども医療センター新生児科

Neonatology, Kanagawa Childrens Medical Center

キーワード :

【背景・目的】
近年重症心疾患の治療成績は急速に向上してきた.当院の心臓外科手術症例の成績をみると,年間300件の心臓外科手術の死亡率は1%以下,完全大血管転位(TGA)に対するJatene手術の手術死亡は2%以下,左心低形成症候群(HLHS)に対するNorwood/Glenn/Fontan手術の3年生存率は83%に到達している.胎児心スクリーニングの普及がこのような治療成績向上に大きな役割を果たしている.しかし,厳密なpopulation based studyに基づいた重症心疾患の胎児診断率は日本からは報告されていない.hospital based studyではあるが神奈川県内の重症心疾患の大多数をカバーしている当院のデータは神奈川県のpopulation based studyに近似していると考えられる.当院の胎児診断率を検討し,胎児心スクリーニングの到達点,および問題点を明らかにし,10年後の近未来像を考察した.
【対象・方法】
1993年から2010年の18年間に当院で胎児診断された970例の心疾患症例を対象とした.重症心疾患としてHLHS,無脾症,多脾症,ファロー四徴症(TOF),TGA,大動脈縮窄複合(COA)/大動脈急離断(IAA),心内奇形を伴わない単独の総肺静脈環流異常(TAPVD)をpick upし,胎児診断率の年次推移を検討した.
【結果】
1)生後1年以内に治療を要した重症心疾患の胎児診断率は2000年以前は10%代であったが,2000年から2005年は30%前後,2006年以後は40-60%に到達した.2)HLHSの胎児診断率は2000年以前は12%,2000年から2005年は52%,2006年以後83%であった.3)無脾症の胎児診断率は2000年以前は16%,2000年から2005年は49%,2006年以後は62%であった.4)多脾症の胎児診断率は2000年以前は40%,2000年から2005年は75%2006年以後は88%であった.5)TOFの胎児診断率は2000年以前は8%,2000年から2005年は26%,2006年以後は66%であった.6)COA/IAAの胎児診断率は2000年以前は7%,2000年から2005年は25%,2006年以後は33%であった.7)TGAの胎児診断率は2000年以前は0%,2000年から2005年は16%,2006年以後は27%であった.8)単独のTAPVDの胎児診断率は2000年以前は0%,2000年から2005年は0%,2006年以後は12%であった.
【考案】
重症心疾患の胎児診断率は順調に増加し,最近では60%に到達した.単心室疾患の胎児診断率は80%を超えた.2心室疾患のうち,TOFの胎児診断率は60%を超えた.しかし,COA/IAAやTGAはいまだ1/3以下である.単独のTAPVDはほとんど診断されていない.四腔断面のスクリーニングは広く普及した.流出路異常のうち大血管の大きさからのスクリーニングは普及しつつある.今後の課題として残されているのはCOA/IAA,TGA,TAPVDであり,これらの疾患をターゲットとしたスクリーニング法を普及させる必要がある.10年後の近未来において,さらに胎児スクリーニングが普及し,重症心疾患の治療成績が向上することを望む.
【結語】
COA/IAA,TGA,の胎児スクリーニング向上が10年以内の近未来の課題である.