Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画18 消化器:消化器インターベンションと超音波

(S217)

超音波ガイドによる肝癌の強力収束超音波治療(HIFU)

HIFU therapy of liver carcinoma guiding with ultrasonography

佐野 隆友

Takatomo SANO

東京医科大学病院消化器内科

Gastroenterological Medicine, Tokyo-Medical University

キーワード :

【目的】
肝癌に対する治療として,外科手術,ラジオ波熱凝固療法(RFA),エタノール注入療法(PEIT),肝動脈塞栓療法(TAE)などが行われてきた.それらの治療法により肝癌患者の生命予後は著しく改善されたが,腫瘍の存在部位や残肝機能などの条件により治療適応外となる症例も見受けられる.高密度焦点式集束超音波(以下HIFU)は強力な超音波を1点に集束させ,非侵襲的に身体内部の目的部位の温度を上昇させる事が知られている.本邦では前立腺癌に対し経直腸プローブを用い,以前よりHIFU治療が行われてきたが,消化器領域では臓器の呼吸性移動,肋骨や胸骨の存在,消化管内のガス,治療時における皮膚熱傷等により,現在もその治療法の改善及び工夫が求められている.我々は2009年よりChina Medical Technologies社製FEP-BY02を用い,肝癌43例に対しHIFU治療を行い,ある程度の知見を得たので報告する.
【方法】
我々が使用しているFEP-BY02 は上下2層のトランスデューサーを有し,直径37cmの球面体に1.1MHz,251個の超音波発信子が並び,それらが1点に収束した固定焦点となっている.病変の部位により上下どちらかのトランスデューサーを選択し,用いるが肝癌の治療では上のトランスデューサーを利用するのが通常である.超音波の収束角度は80度と広角なため,皮膚を通過する際に危惧される熱傷発生のリスクが軽減され,治療中の痛みも少ない.このため治療は静脈麻酔等一切使用せずに施行することが可能である.治療部位はトランスデューサー中央に設置されたB-mode超音波診断プローブにより観察,決定されるが治療実施中もリアルタイムに治療部位の観察が可能である.観察用のプローブは180度回転可能であり,病変の矢状断,冠状断での観察も可能である.収束超音波の出力は病変の存在部位,腫瘍内の血流量などにより11W〜2000Wまでコントロール可能で,収束領域は3×3×10mm,焦点距離は25.5cm.トランスデューサーを移動,もしくは患者の体を移動することで治療領域を移動させていく.収束超音波の発射方法は,皮膚熱傷や過度の焼灼を避けるため間欠的な発射が推奨され,その発射時間,休止時間,発射回数も全て症例により自由に設定することがパソコンのワークステーション上で可能である.そして段階的に目的部位の温度を上昇させ,がん細胞の壊死を目的とする.実際の治療は,消化管にガスが入る事を避けるため,治療直前の食事を禁止としたが麻酔薬は特に用いなかった.肋骨にHIFUが当たると痛みを訴えるため,肋骨は薄い発泡スチロールでマスキングした.出力は腫瘍の大きさや深度により,500W〜1800Wの間で調節し,深吸気時に照射した.1日の治療(セッション)にかかる時間は約1時間30分程度,2〜5セッションを必要とした.
【成績】
全43例中,15例で治療を完遂する事が出来た.15例の平均腫瘍径は21.4mm,腫瘍までの平均病変深度は34.6mm.肝右葉が1例,左葉が14例.背景肝はHCV12例,HBV1例,アルコール2例であった.肝表面に病変が存在したものが4例,肝裏面5例,肝臓の端が2例,心臓の脇が1例であった.平均セッション回数は3.06回.一方治療を完遂出来なかった28例の平均腫瘍径は28.6mm,平均深度が56.3mm,肝右葉が16例,左葉が12例であった.全例において重篤な合併症は認めなかった.
【結語】
超音波ガイドによるHIFU治療は低侵襲で安全性が高く,肝癌治療における有用性が期待されるが,肝右葉に存在する病変,深度の深い病変,皮下脂肪が厚い症例では治療困難であり,HIFU治療における増強剤の登場が期待される.