Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画17 消化器:びまん性肝疾患 2011(組織性状・コントラスト・硬さ評価)

(S212)

エコー信号の統計的性質を基準としたびまん性肝疾患の線維化の評価

Evaluation of liver fibrosis based on the statistical property of echo signal

山口 匡

Tadashi YAMAGUCHI

千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター

Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University

キーワード :

【はじめに】
我々はこれまでに,複数のエコー信号解析法を用いて肝臓中に生成された線維組織の検出を試みてきた.そのひとつが,肝エコー信号の振幅情報を統計解析することによって,正常な肝臓からのエコー信号に埋没した病変組織からのエコー信号を高精度に検出するという信号処理である.この処理は,正常肝からのエコー信号の振幅確率密度分布がレイリー分布に近似できことを基準とし,レイリー分布からの逸脱度を指標として線維化の進行度および構造を把握するものである.本講演では,逸脱度の判定基準となる解析パラメータの導出過程から,臨床データにおける解析結果について述べる.また,異なる信号処理法により肝臓中の線維構造をイメージングした結果について合わせて紹介する.
【方法】
エコー画像の特徴にひとつにスペックルノイズの存在がある.スペックルとは生体中に密に存在する多数の微小散乱体からの微弱な反射信号の干渉結果であり,生体内に照射する音波(ビーム)の分解能に応じた広がりを持つノイズパターンである.正常な肝臓では組織構造が均質であることからエコー画像中の肝臓領域はスペックルで占められることになる.一方で線維症の発症した肝臓では組織の線維化により構造が不均質化し,エコー画像中ではスペックルが乱れ,異なる特徴的なパターンが現れる.よって,スペックルの性質を定量的に捉えることができれば,病変進行を定量的に判定することが可能となると考えられる.スペックルが生体中の散乱体構造と相関しないノイズ成分であるがゆえに,その特性は統計学的に論じられることになる.一般に,スペックルを呈するエコー信号の振幅確率密度分布はレイリー分布で近似可能であることが知られている.一方で,線維化した肝臓ではスペックルとは異なる信号成分が含まれるが,病変組織(線維)からの反射信号成分のみを振幅確率密度分布で近似した場合もレイリー分布になると仮定できる.ただし,スペックルの発生原因となる正常な肝臓組織に対して線維は散乱体密度が高く,硬い組織であることからエコー強度に差が生じ,2つのレイリー分布は異なる分散を有することになる.よって,正常肝由来のエコー信号の振幅確率密度分布に対する線維由来のエコー信号の振幅確率密度分布の混在率を基準として,エコー信号全体の振幅確率密度分布示を表現できると考えられる.複数の分布関数の一致度を知るための統計的な一手法であるQ-Q確率プロットを用いてレイリー分布を表現すると,勾配が2の直線で表現される.一方で,線維化した肝臓において高散乱体密度部位の混在率が変化した場合においては,プロット結果は直線性を失い,かつ勾配が混在率の増加と共に変化する.また,線維部の散乱体密度を変化させ,正常肝との散乱体密度比を変えた場合においても同様の結果が得られる.このことから,エコー信号のQ-Q確率プロット結果における直線性および勾配を基準として,肝臓中における線維の混在率および散乱体密度を推定できる.
【結果】
複数の臨床エコーデータについて,Q-Q確率プロットをベースとした信号解析法によって正常肝,軽度から重度の肝炎および肝硬変の臨床データを解析し,散乱体が高密度な部位が解析領域中に多量に存在する点のみを線維と判定して色付けした.その結果,病変の進行に伴って線維と判定された部位の量が増加し,広範囲に分布している様子が確認された.また,スペックルノイズを統計的手法で排除することにより,肝臓表面および内部の線維構造を三次元で可視化することが可能となった.