Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画17 消化器:びまん性肝疾患 2011(組織性状・コントラスト・硬さ評価)

(S208)

Transient elastographyを用いた肝硬度と,慢性肝疾患における発癌とについての検討

Evaluation of liver stiffness as measured by transient elastography and cancerogenesis in patients with chronic liver disease

玉野 正也1, 小嶋 和夫2, 秋間 崇2, 国吉 徹2, 橋本 敬2, 前田 知津2, 平石 秀幸2

Masaya TAMANO1, Kazuo KOJIMA2, Takasi AKIMA2, Toru KUNIYOSHI2, Takashi HASHIMOTO2, Chizu MAEDA2, Hideyuki HIRAISHI2

1獨協医科大学越谷病院消化器内科, 2獨協医科大学消化器内科

1Gastroenterology, Dokkyo Medical University, Koshigaya Hospital, 2Gastroenterology, Dokkyo Medical University

キーワード :

【目的】
慢性肝疾患は病因に関わらず,その進展過程で肝の線維化を伴う.肝の線維化は予備能の低下をもたらすのみでなく,肝細胞癌(HCC)の発癌にも大きく寄与している.肝繊維化診断のゴールドスタンダードが肝生検による病理組織診であることに異論はないが,侵襲的であること,またサンプリングエラーや病理医間の診断の相違などの問題がある.Transient elastography (TE) はパルス振動波の組織内伝播速度を超音波画像解析法により測定するものであり,肝臓の硬度が弾性値kPa(キロパスカル)として定量的に数値化される.TEは非侵襲的であり,本法を用いた肝硬度測定と組織学的な肝線維化が良好に相関することは知られている.今回は慢性肝疾患における肝硬度とHCC発癌との関係を検討した.
【方法】
対象は慢性肝疾患343例.ウイルス肝炎157例 (HBV 24例,HCV 137例,HBV+HCV 1例),非ウイルス性肝疾患186例(NAFLD 148例,アルコール性肝障害14例,自己免疫性肝炎(AIH) 7例,原発性胆汁性肝硬変(PBC)3例,その他 14例)であった(NAFLD群には肝生検で確定診断したNASH 27例を含む).これらの対象者に対して午前中絶食で行う超音波検査の後にTEを施行し,得られた肝硬度とHCCの有無について検討した.また,HCC非合併例については,その後の発癌の有無を前向きに追跡し検討した.本臨床研究は,獨協医科大学生命倫理委員会の承認の後,患者本人への文書による説明と合意のもとに施行された.
【成績】
TEによる測定は全例で,安全かつ短時間に施行し得た.TE施行時にHCCを合併していたのは42例であり,その病因と肝硬度は,HBV (n=5) :36.7±15.1 KPa,HCV (n=35) :23.4±2.9 KPa,HBV+HCV (n=1) :16.9 KPa,NASH (n=1) :8.8KPaであった.ウイルス肝炎群においてはHCC合併41例の肝硬度は26.7±3.5 kPa,HCC非合併例127例では11.0±0.7 kPaであり,HCC合併例の肝硬度は有意に高値であった (P<0.0001).HCC非合併例301例中,6ヶ月以上経過観察し得たのは223例(ウイルス肝炎106例,非ウイルス性肝疾患117例)であり,うち12例にHCCの新たな発癌を認めた.その病因と観察開始時の肝硬度は,HBV (n=1): 14.8 KPa,HCV (n=9) :20.6±3.6 KPa,AIH (n=1) :21.3 KPa,PBC (n=1): 7.1 KPaであった.ウイルス肝炎群に関しては,新たに発癌した10例の観察開始時の肝硬度は20.0±3.3 KPa,非発癌例96例の観察開始時の肝硬度は9.9±0.7 KPaであり,HCC発癌例の肝硬度は有意に高値であった (P=0.0002).非ウイルス肝疾患群では症例数が少ないもののAIHの発癌に,より強く線維化が寄与する可能性が示唆された.
【結論】
Transient elastographyによる肝硬度測定は,ウイルス肝炎症例におけるHCCスクリーニングと発癌の予測に有用である.非ウイルス性肝疾患の肝硬度と発癌の関連については症例数を重ねたさらなる検討が必要であると思われた.