Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画16 消化器:百聞は一見にしかずの消化器疾患症例

(S204)

腸チフスにおける腸管の超音波像

Ultrasound in the Typhoid Fever

山田 正明1, 加藤 慶三2, 長谷川 雄一3, 藤本 誠1

Masaaki YAMADA1, Keizou KATOU2, Yuuiti HASEGAWA3, Makoto FUJIMOTO1

1富山大学和漢診療科, 2成田赤十字病院消化器科, 3成田赤十字病院検査部

1Japanese Oriental (Kampo) Medicine, Graduate School of Medical and Pharmaceutical Science, University of Toyama, 2Gastroenterology & Hepatology, Narita Red Cross Hospital, 3Clinical Functional Physiology, Narita Red Cross Hospital

キーワード :

【緒言】
腸チフス,パラチフス(以下,チフス性疾患)は近年,国内では稀な疾患である.回腸末端の壁肥厚もしくはリンパ節腫大はチフス性疾患に特徴的であり,90%程度に超音波検査にて所見を認めるとされる.今回我々は経過の指標として超音波検査を使用した腸チフス1例,パラチフス1例を経験したので報告する.
【症例1】
23歳男性,主訴:下痢,発熱
【現病歴】
X年12月よりインドなどアジア諸国に滞在.X+1年1月22日帰国.1月24日より1日10回以上の水様性下痢と発熱が出現.高熱となり,近医にて止瀉薬処方されるも改善なく,同医にて入院加療を受けていた.2月8日血液培養でSalmonella typhiが検出され,腸チフスの診断で成田赤十字病院へ転院となった.
【入院時現症】
体温40.3℃,脈拍112回/分,表在リンパ節触知せず,バラ疹は認めず.血算・生化学では WBC 5800 /μL, AST 267 IU/L, ALT 111 IU/L, BUN 21 mg/dL, CRP 18.8 mg/dLと肝障害と炎症反応の上昇が認められた.入院後の治療としてはCiprofloxacin (CPFX) 内服,Ceftriaxane (CTRX)点滴投与を開始した.経過中,回盲部の超音波所見を,経時的に変化を追った.入院時点では,回腸末端の凹凸のある壁肥厚が見られ,周囲に多数のリンパ節の腫大が見られた.退院前の所見では回腸末端の壁肥厚は消失,周囲のリンパ節も縮小し,個数も著明に減少していた.
【症例2】
29歳男性,主訴:下痢,発熱.
【現病歴】
2ヶ月間ミャンマーに滞在し,Y年6月30日に入国した.入国直後から発熱がみられた.7月6日近医を受診し,血液検査にて軽度の肝機能異常と炎症反応を指摘されていた.水様性下痢(4~6回/day)が出現し,発熱も続くため,7月10日成田赤十字病院を紹介入院となった.
【入院時現症】
体温39.0℃,脈拍92回/分,表在リンパ節触知せず,バラ疹を認めず血算・生化学では WBC 6500 /μL, AST 93 IU/L, ALT 123 IU/L, BUN 11 mg/dL, CRP 5.9 mg/dLと肝障害と炎症反応の上昇が認められた.入院時の超音波所見では回盲部に8mmのリンパ節を認めたが回腸壁肥厚は軽度であり,通常の細菌性腸炎と考えlevofloxacin (LVFX) 内服にて治療を開始した.数日後の血液培養にてパラチフスAが検出され,LVFXを増量しCRTX点滴投与を追加した.8月17日の超音波所見でも回腸,リンパ節に変化はなかった.臨床症状は順調に改善し,治療は計2週間継続した.血液,便培養検査にて陰性を確認して8月6日に退院となった.しかし8月11日から再び発熱し,保健所の便検査にてパラチフスAを検出され,同日紹介再入院となった.CPFX 800mg/dayにて治療を開始したが解熱せず.感受性検査の結果からtosufloxacin (TFLX) 600mg/dayに変更しCTRX 2g/dayを併用した.血液,便培養にて陰性であることを確認し,2週間の投与で治療は中止した.9月4日の超音波検査では腫大リンパ節は消失していた.2度目の退院後,再燃は見られなかった.
【考察】
症例1ではチフス性疾患に典型的な超音波所見を確認し,培養検査なしでも診断が可能であったと思われた.また,治療によって改善する経過を確認した.症例2は特徴的な超音波検査所見に乏しく,初回治療後も所見に変化は見られなかった.培養で陰性を確認して治療終了としたが,再燃を来たした.再治療により,超音波検査にて回腸壁肥厚,腫大リンパ節の所見が完全に消失していたことを確認できた.
【結語】
超音波検査はチフス性疾患に対して治療の経過を知る上で有用であった.チフス性疾患は再燃しやすい疾患であり,血液,便培養だけでなく超音波検査による経過観察も重要と思われた.