長沼 裕子¹, 石田 秀明², 大山 葉子³, 小川 眞広⁴

Hiroko NAGANUMA¹, Hideaki ISHIDA², Youko OHYAMA³, Masahiro OGAWA⁴

¹市立横手病院消化器科, ²秋田赤十字病院消化器科, ³秋田組合総合病院生理検査部, ⁴駿河台日本大学病院消化器科

¹Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, ²Department of Gastroenterology, Akita Red Cross Hospital, ³Department of Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, ⁴Department of Gastroenterology, Nihon University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
肝腫瘍の合併症として破裂や腫瘍内出血があげられる．その診断に，多くの画像診断が報告されてきたが，リアルタイム性に優るUSが有利と考えられてきた．さらに造影超音波の出現により出血（造影剤の血管外漏出）の有無，程度を知ることができる．Active bleeding，slow bleeding，non-bleedingの症例を比較して呈示する．
【症例1】
転移性肝癌破裂例（active bleeding）．70歳代女性．主訴は発熱，倦怠感，貧血．3年前に子宮平滑筋肉腫からの転移性肝癌のため肝外側区域切除．2年前より転移性肝癌再発と腹膜播種を認め経過観察中．USでS8の肝表面に低エコー領域と高エコー領域のある約4.5 cmの腫瘍を認め，肝表面の部位より，立ちのぼる様に，淡い柔らかな線状エコーを認めた．カラードプラ法では腫瘍内部に点状カラー信号をわずかに認めた．造影USを施行．日立EUB8500，pulse inversion法，造影剤レボビスト．造影剤注入後約10秒後から，腫瘍からの淡い線状エコーの形のとおりに造影剤の漏れが確認された．漏れは血管相の間緩やかに続いた．転移性肝癌からのactive bleedingと考え，TAEを行った．TAE後貧血の進行はなく，治療効果判定目的の造影USでは造影剤の漏れはみられなかった．
【症例2】
肝嚢胞腺腫例（slow bleeding）．50歳代女性．主訴は軽度上腹部痛．USで肝左葉に約13cmの嚢胞性腫瘍を認め，内部に淡い点状エコーおよび嚢胞壁より内腔へむかう乳頭状や類円形の多彩な構造物を認めた．カラードプラ法では血流シグナルは認めなかった．造影US施行．日立EUB8500，pulse inversion法，造影剤レボビスト．動脈相では染影が認められなかったが，9分後以降に乳頭状の多彩な構造物や結節様構造物に染影がみられ，嚢胞内腔にも造影剤が拡散していく様子が確認された．内部構造への造影剤の残存および嚢胞内腔への拡散は90分後に観察した際にも認められた．Slow bleedingを伴う肝嚢胞腺癌が疑われ肝部分切除術施行．組織学的に肝嚢胞腺腫と診断され，切除標本で，内部に出血を示す茶褐色の内容物を認めた．
【症例3】
肝癌破裂例（non-bleeding）．70歳代男性．主訴は数日前に出現し急速に増大した腹部膨満感．USでは腹水と内部の点状エコーを多数認め，肝辺縁凹凸不整でS8からこぶ状に突出するように存在する約8cmの腫瘍，腫瘍と周囲肝表面を覆うように等〜高エコーの腹腔内貯留物を認めた．カラードプラ法では多数の血管がこぶ状に突出した部分に向かう腫瘍血管が認められ，肝硬変に合併した肝癌の破裂が考えられた．造影USを施行．東芝AplioXG，pulse inversion法，造影剤ソナゾイド．腫瘍は早期に染影されたが血管相，後血管相通じて造影剤が腹腔内に漏れ出ることはなかった．肝癌破裂し一時止血しているnon-bleedingの状態と診断した．
【まとめ】
Active bleeding（現在進行している出血がある状態）やslow bleeding（ゆっくりと少量の出血が起こっている状態），non-bleeding（止血している状態）の症例を呈示した．このような，腫瘍から腹水の存在する腹腔内に漏出する，または腫瘍内に漏出する造影剤の超音波像はかなり衝撃的で，一度見ると，記憶に残るものである．腫瘍破裂，腫瘍内出血が疑わしい場合には造影超音波による治療方針，緊急性の判断が必須であり，このような画像を知っておくと役に立つと思われる．