石井 克尚

Katsuhisa ISHII

関西電力病院循環器内科

Cardiology, Kansai Electric Power Hospital

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冠血流が低下し心筋に虚血が生じた場合，まず最初に心筋の代謝障害に始まり続いて拡張障害，収縮障害，心電図変化そして最後に胸痛という一連の現象がおこる．これがいわゆるischemic cascade（虚血の滝）で知られる現象である．逆に冠血流が回復し虚血が改善した場合に生じる現象をreverse ischemic cascadeと呼ぶが，この虚血発作後のreverse ischemic cascadeを心エコー法で観察する過程で，収縮運動が改善した後に遷延する拡張運動遅延が報告されている．一過性の局所壁運動低下は，心筋虚血に対する鋭敏な指標であり，心筋虚血による左室機能障害には拡張障害と収縮障害が存在する．一般的には拡張障害が収縮障害に先行して生じるが，心筋虚血において拡張障害の後に速やかに収縮障害が生じるため，臨床の現場では虚血進行中に拡張障害のみを検出することは困難である．近年，心筋脂肪酸代謝トレーサであるBIMPP心筋シンチ検査を用い運動負荷後に左室虚血部位の脂肪酸代謝異常が30時間以上にわたり持続している事を報告され，metabolic stunningという概念が提唱された．また組織ドプラ心エコー法を用いた動物実験において虚血発作後のpostsystolic shortening （PSS）が遷延し，虚血の重症度とPSSの持続時間が相関することが観察されている．このように一過性の心筋虚血後に収縮運動が回復後も遷延する左室局所の拡張障害がdiastolic stunningである．一過性の虚血によるsystolic stunningはfree radicalとカルシウム負荷により起こることが報告されているが，diastolic stunningに関しては虚血後に持続する心筋脂肪酸代謝異常により，sarcoplasmic reticulum Ca 2+-ATPase（SERCA）を介した心筋細胞質内freeカルシウムの小胞体内への取り込みが障害され，早期の拡張運動が遅延すると考えられている．心エコー法による心筋虚血の診断には壁運動の評価が重要であり，この壁運動を解析する新たな方法として開発されたのがスペックルトラッキング心エコー法である．スペックルトラッキングは，パターンマッチング技術をB-mode超音波画像に応用したものであり，ドプラ情報を用いないため従来の組織ドプラ（TDI）法と異なり角度依存性が無いことが大きな特徴である．このトラッキングによって心筋局所のさまざまな方向のストレインを求めることが可能となり，リアルタイムで心筋局所の収縮・拡張運動を観察することができる．今回，我々はスペックルトラッキング心エコ-法を用いてdiastolic stunningを検出することによる冠動脈診断を行った．これらの方法は虚血性心疾患診断のパラダイムシフトとなり，日常臨床において心エコ-法の有用性がさらに重要になると考えられる．