Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画15 領域横断:各領域において超音波はこの点でCT・MRI に優る

(S196)

心筋灌流評価における心筋コントラストエコーの利点

Stayin’ Alive: Assessment of myocardial ischemia by myocardial contrast echocardiography

岩倉 克臣

Katsuomi IWAKURA

桜橋渡辺病院循環器内科

Division of Cardiology, Sakurabashi Watanabe Hospital

キーワード :

 多くの研究において心筋コントラストエコー法が心筋灌流の評価法として精度の高い方法であり,心筋虚血の検出においても心筋シンチに匹敵する能力を秘めていることが報告されてきた.しかしながら臨床の現場での普及については冠動脈CT,心MRIのはるか後塵を拝しているのが現状である.これは心筋染影を得るためのエコー装置の設定を含めて実施手順が複雑であること,結果解釈が難しく,しばしば主観的方法によらざるをえないことなどによるものである.だが心筋コントラストエコー法には他の方法にない利点もある.
 心筋コントラストエコー法は微小気泡を含む超音波造影剤を用いて心筋灌流を描出方法である.すなわち心筋微小循環系内に存在する微小気泡からの強い超音波反射信号(backscatter)を心筋染影として捉えて表示する.この方法の最大の特徴は,信号が微小血管内に存在する微小気泡から直接帰ってくる点にある.心筋シンチでは実際には心筋細胞間隙に流入したり,傷害心筋に取り込まれたトレーサーからの信号を見ており,その動態は実際の血流と全く同じとは限らない.微小気泡は赤血球と同程度のサイズを持ち,基本的に血管外に漏出することなく血流に乗って移動するので,その動態は血流の動態を直接反映することになる.他のトレーサーが虚血に伴う変化を観察するのに対して,超音波造影剤こそが真の「血流トレーサー」であると言える.
 このような性質に心エコー法の利点である高い空間分解能が加わることにより,心筋内構造における心筋虚血の分布を評価することが可能である.心筋虚血は心内膜側より出現するが,薬剤負荷心筋コントラストエコー法でも虚血に伴う染影欠損は心内膜側から出現する.このような性質を用いると心筋虚血の重症度判定や,病態の違いによる心筋虚血の心筋組織内における差についても評価出来る可能性がある.
 さらには心筋染影の変化を定量的に評価することにより局所心筋の虚血の有無のみではなく,心筋内微小血流速度や微小血管容積の変化についても定量的に評価することが可能であり,虚血の病態をより詳細に評価できよう.
 心筋コントラストエコー法のもう一つの利点はベッドサイドで容易に可能実施であることである.特にST非上昇型急性冠症候群を疑われる症例に対しては,ベッドサイドで容易に実施可能である点は大きなメリットである.結果をリアルタイムで評価出来るのも有用性を大きくしている.このような場合,薬剤負荷を併用せず,簡便な単回投与法でも高度狭窄の存在する症例の検出は可能である.
 さらに心エコー法としての種々の観察も同時に行うことが出来るのも重要である.壁運動を同時に観察出来る点は,負荷コントラストエコー法による虚血評価においても急性冠症候群の診断においても重要な役割を果たす.その他,心機能やドプラエコーでの心内血流の評価も可能である.心筋コントラストエコー法では,薬剤負荷としてはジピリダモールやアデノシン(またはATP)が用いられることが多いが,この時に冠動脈血流速度の計測を同時に行えば,心筋灌流の変化と冠予備能を共に評価することも出来,虚血の診断精度の向上が期待できる.
 このように心筋コントラストエコー法には他の方法にない多くの利点があるのであるが,煩雑性,評価の困難さなどの問題が他の方法に比べ普及を妨げている.これらの利点を十分に生かしていくためには,より簡便な実施を可能にし,かつ結果もより客観的かつ分かりやすい形で表現できるような方法の開発が必要であろう.