Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画14 循環器:左室拡張機能評価法を整理して理解する

(S194)

TMAD法を用いた正常左室駆出率症例における左室拡張能の評価

Assessment of left ventricular diastolic function by TMAD (Tissue Mitral Annular Displacement) in patients with preserved ejection fraction

岩倉 克臣

Katsuomi IWAKURA

桜橋渡辺病院循環器内科

Division of Cardiology, Sakurabashi Watanabe Hospital

キーワード :

【目的】
左室収縮能は心腔への動きよりも心尖方向への動きを評価する方が正確であり,特に心周期に伴う僧帽弁輪の心尖方向への変位は左室駆出率(EF)ともよく相関する.心尖方向への動きは従来評価が困難であったが,組織ドプラ法や2D speckle tracking法などにより簡便かつ定量的に計測することが可能となった.TMAD(Tissue Mitral Annular Displacement)は2D speckle tracking法を用いて計測された僧帽弁輪の心尖方向への変位距離である.僧房弁輪の2点ならびに心尖を指定するだけで,僧房弁輪中点の移動距離がTMADとして自動的に求められる(図).TMADはMRIで計測したEFともよく相関し,新しい左室収縮能の指標として注目されている.
EFの保たれた症例で認められる心不全 Heart Failure with Preserved Ejection Fraction (HFpEF)は拡張能低下を主とする病態であるが,心尖方向への収縮能も潜在的に低下している.我々はEFが保たれた症例におけるTMADと拡張能の関係について検討した.
【方法】
EF≧60%で有意な僧帽弁疾患のない連続67例(平均年齢 63±14歳,EF 71±7%)を対象とし,iE33(Phillips Medical Systems)にて心エコー図を記録,また心尖四腔像におけるTMADをQLabソフトウェアにて計測した.
【結果】
TMADは僧帽弁後退速度(e’)と有意な正の相関関係を示した (R2=0.29, p<0.0001).それに対して今回の症例ではTMADとEFの間には有意な相関関係を認めなかった.またTMADはE/e’と負の相関関係を示し(R2=0.25, p<0.0001)し,左房容積係数とも相関関係を認めた(R2=0.12, p=0.004).さらに左室後壁の壁厚との間にも相関関係が認められた(R2=0.19, p=0.0002).これらは正常EF症例ではTMADはEFよりも左室拡張能を反映することを示すものと考えられた.
【結論】
HFpEF症例では拡張能低下により左室拡張末期径=前負荷が低下することで収縮能が低下すると考えられる.EFは収縮能の指標としては大まかであり,収縮能の変化を十分に反映するものではない.TMADは収縮能の変化をより高い精度で検出できると共に,それに伴う左室拡張能の変化を反映しうると期待される.