Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画10 循環器:内科医と内科技師が学ぶ成人先天性心疾患

(S179)

先天性心疾患患者の妊娠時のチェックポイント

The Usefulness of Echocardiography to Manage Pregnant Women Complicated with Congenital Heart Disease

池田 智明

Tomoaki IKEDA

国立循環器病研究センター周産期・婦人科

Department of Perinatology and Gynecology, National Cerebral and Cardiovascular Center乳腺・甲状腺の硬さ評価 2011

キーワード :

循環器医療や新生児医療の発展に伴い,先天性心疾患合併妊娠の症例数の増加とともに,その許容範囲も変化しつつある.妊娠出産に伴う母体の心循環変化は大きく,一部の心疾患合併妊娠においては母児リスクも高い.母体の周産期管理上,心エコー検査は非侵襲的で胎児被爆を与えない,最も適した心血管検査である.周産期の循環動態の変化と心疾患合併母体への影響 周産期には,母体循環動態はダイナミックに変化する.心疾患合併妊娠においては,以下のような循環生理を理解し,母体の管理を行っていくことが重要である.
【循環血漿量の増大】
循環血漿量は妊娠初期から中期にかけて大きく増加し,平均して非妊時の1.5倍となる.このような前負荷の増大に対して,狭窄性疾患や肺高血圧症,心機能低下症例では心不全の出現や低心拍出量に注意していく必要がある.分娩時には,心拍出量が20%ほど増加し,分娩直後には,子宮が収縮するとともに,下大静脈の圧迫が解除され,急激な静脈還流の増大が起こる.妊娠中に増加した循環血漿量のため,分娩後は一過性に容量負荷の状態をきたし,正常化するまでには約4〜6週間かかる.心疾患合併妊娠においてもっとも母体死亡率が高いのが産褥期であり,特別な注意が必要である.
【血管抵抗の低下】
妊娠初期より大動脈圧,全身血管抵抗は低下し,妊娠中期には最低値をとる.このような後負荷軽減により,中等度以下の逆流性疾患やシャント疾患では問題なく妊娠出産を終えることが多い.
【凝固能の亢進】
妊娠中は凝固因子などが増加・活性化されるため,血栓・塞栓のリスクが高くなる.深部静脈血栓や肺塞栓の発症,機械弁置換術後例では血栓形成による弁機能不全や塞栓症などの合併がおきやすいため,綿密な抗凝固・抗血小板療法が必要である.
【心拍数の増加】
心拍出量の増加は,妊娠初期〜中期には主に1回心拍出量の増加により,妊娠中期〜後期には心拍数の増加により達成される.妊娠後期には,非妊時に比し,約20%まで心拍数は増加する.心拍数の増加や血漿量の増加に伴う心拡大(心筋伸展)などに伴い,不整脈の出現も増加する.
【血管壁の脆弱性増加】
妊娠中,エストロゲンなどの影響で大動脈壁は中膜の変性を来たし,脆弱性を増す.大動脈拡大を伴うマルファン症候群,大動脈炎症候群や大動脈縮窄症・大動脈二尖弁患者では大動脈瘤拡大や大動脈解離のリスクが上昇する.心血管疾患合併妊娠においては,妊娠前もしくは初期と循環血漿量の増加がほぼピークに達する25〜30週に心エコー検査を行い,あとはリスクや自他覚症状に応じて検査を追加することが薦められている.しかし,肺高血圧症やマルファン症候群などのハイリスク症例では,この限りではなく,1〜2週間おきの心エコー検査が必要となる.