Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画8 血管:超音波による血管不全診断

(S171)

糖尿病患者における早期動脈硬化機能診断

Early arterial sclerosis diagnostic methods in diabetes mellitus

濱口 浩敏

Hirotoshi HAMAGUCHI

神戸大学医学部附属病院神経内科

Department of Neurology, Kobe University Hospital

キーワード :

【はじめに】
糖尿病が動脈硬化の危険因子の重要なファクターであることは周知の事実である.頸動脈エコーでのIMT測定が糖尿病患者の進展因子としてしばしば評価されるが,IMT値が正常の糖尿病患者については早期動脈硬化の評価が困難になる.その他,早期動脈硬化を評価する方法として,ABI,TBIなどで末梢の肥厚度を確認する方法と,stiffness parameter βやbaPWV,CAVIなど硬化度を確認する方法があるが,これらの検査法については各々の評価のみでの報告が多く,各検査法における関連性と傾向についてはいまだ明確にはなっていない.今回,糖尿病患者のmax IMT,mean IMT,stiffness parameter β,baPWV,ABI,TBI,CAVIを計測し,それぞれの関連性と早期動脈硬化の指標として有用な検査法について検討する.
【対象・方法】
平成22年10月より平成22年12月まで当院に入院された糖尿病患者連続41例(平均年齢60.3歳,男性19例,女性22例)に対して,頸動脈エコー検査(max IMT,mean IMT,stiffness parameter β),baPWV,ABI,TBI,CAVIを計測し,病型,罹病期間との関連性について検討した.頸動脈エコー検査はALOKA社α10を用いた.両側CCAのfar wall長軸像にてmax IMTを計測し,両端1cmを計測しmean IMTを算出した.stiffness parameter βも同部位での動きを計測した.baPWV,ABI,TBIについてはオムロンコーリン社form PWV/ABIを用い,CAVIはフクダ電子VS1000にて計測した.
【結果】
病型としては,I型糖尿病(以下I型)が8例,II型糖尿病(以下II型)が30例であった.年齢はI型が45.5歳,II型が64.8歳.罹病期間はI型が15.5年,II型が18.5年であった.max IMTはI型が0.58/0.66mm(右/左,以下同),II型が0.98/1.00mmであった.mean IMTはI型が0.55/0.62mm,II型が0.84/0.89mmであった.stiffness parameter βはI型が6.56/6.80,II型が10.68/10.86であった.baPWVはI型が1,377/1,336cm/sec,II型が1,780/1,767cm/secであった.ABIはI型が1.14/1.10,II型が1.13/1.14であった.TBIはI型が0.76/0.78,II型が0.76/0.80であった.CAVIはI型が7.69/7.78,II型が9.20/9.12であった.病型間で罹病期間に有意差は認めなかった.max IMTが1.0mm以下の症例では,年齢,max IMT,mean IMT,stiffness parameter β,baPWVにおいて,病型間で有意差を認めた.
【考察・結論】
糖尿病患者においては,早期動脈硬化を正確に把握することが早期からの治療介入につながり,結果として心血管系イベントを抑制できることになる.そのためにはどの検査方法が有用かを確認することが重要である.今回の検討では,頸動脈エコーにおいては,max IMT,mean IMT値に加えて,stiffness parameter β値においてもII型の方が高値であった.また,ABIやTBIについてはI型とII型で明らかな差は認めなかったが,baPWV値やCAVI値ではII型の方がより高値であった.これらの結果から,糖尿病患者の早期の動脈硬化診断において,肥厚度よりも硬化度をまず確認することが重要であることが判明した.さらに,I型よりもII型の方がより早期に動脈硬化が進展する可能性が高いと考えられた.一方で,各検査の関連性と各々の正常値についてはいまだ議論の及ぶところである.また,いずれの検査においても,少しの条件の違いで数値が変化する点にも注意が必要である.今回の検討ではさらに症例を集積し,糖尿病患者における,より早期からの動脈硬化機能診断に有用な指標を明らかにしたい.