Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別演題企画7 消化器:消化管超音波検査を普及させるには?

(S166)

内視鏡医の立場からみた消化管超音波検査

Sonography in the gastrointestinal tract; endoscopist’s view

樫田 博史1, 前川 清2, 工藤 正俊1

Hiroshi KASHIDA1, Kiyoshi MAEKAWA2, Masatoshi KUDO1

1近畿大学消化器内科, 2近畿大学超音波室

1Department of Gastroenterology and Hepatology, Kinki University, 2Division of Ultrasound, Kinki University

キーワード :

消化管検査の gold standard は内視鏡検査であり,以前は,超音波検査が消化管に不向きであるという先入観が強く,積極的に施行しない施設も多かった.しかし超音波機器の進歩,消化管超音波検査に関する知識の普及などにより,最近では超音波を活用する施設も増加してきているように見受けられる.
【目的と方法】
消化管における体外式超音波検査(US)の有用性を内視鏡との比較を中心に検討する.
【考察】
US の最大の特徴は,非侵襲的であり特別な前処置を必要としないことにある.そのため,腹痛や嘔気など腹部症状を訴えて来院した患者に対して,問診・理学所見に次いで行うべき検査であり,「聴診器がわり」とも言われるゆえんである.US の第1の役割は,症状の原因がどの臓器にあるかを大まかにふるいにかけ,次に進むべき精査法に関する指針を与えてくれる.例えば,腹痛・発熱で受診した場合,US で胆管拡張を認めれば総胆管結石や膵腫瘍などを疑い,胆膵系の精査が必要であるし,逆に US で肝胆膵系に異常なく,一方腸壁の肥厚でも認めれば,腸炎や憩室炎を疑って,便培養や内視鏡検査に進むことになる.時には腹痛の原因が大動脈瘤,尿路結石,卵巣嚢腫など消化器以外に存在することもあるが,仮に US をせずに内視鏡検査をしてしまったら,確定診断が得られないばかりか,患者に無駄な負担をかけ,診断が手遅れになりかねない.CT 検査も患者にふりわけに使用できるが,放射線被曝・造影剤アレルギーや予約待ちの問題がある.また,X線陰性結石,虫垂炎など,CT よりむしろUS の方が感度高く診断できる疾患もある.消化管に限っても,胃や大腸病変の場合は内視鏡検査がさほど困難ではないが,小腸病変の場合,US にて病気の主座が判明しておれば,無駄な上下部内視鏡検査をせずとも,直接小腸の精査に進むことが可能となる.第2にUS だけでほぼ確診の得られる病態も少なくないことを認識すべきである.AGML,消化性潰瘍穿孔,イレウス,腸重積,腸間膜動脈血栓症,虫垂炎,憩室炎,腸炎などは,US でそれと診断できれば,他の検査を待たずに治療(保存的治療か外科的手術か)を開始できることが多い.精査するにしても,病状が安定してから待機的に行えばよい.第3に,内視鏡検査と異なって,US は消化管の断層像が得られることが特徴であり,胃炎や腸炎の場合壁肥厚の程度や周囲リンパ節の腫張,腹水の存在などが容易に診断でき,SMT や腸重積先進部の診断にも有用である.特殊な例としては,病原性大腸菌による腸炎の際,溶血性尿毒症症候群の診断も可能な場合がある.炎症の程度や腫瘍の深達度診断もある程度可能である第4にカラードプラを併用すれば,内視鏡検査では不可能な,血流診断も可能である.第5に,US はその非侵襲性のために繰り返し施行できる利点を有し,病態の経過観察に有用である.第6に,USはCTと異なってリアルタイムの画像が得られ,内視鏡検査と異なって鎮痙剤を使用しないため,消化管運動を観察でき,機能的疾患の診断にも有用な場合がある.US の欠点は,患者の体型や術者の技量によって精度が大きく異なること,病変の部位によって盲点があること,などである.消化管 US に関しては造影剤の使用が保険適応外となっているが,その点の改善も期待される.
【結論】
消化管US は,患者のふるい分け,病変によっては確定診断,断層像観察,血流診断,経過観察に有用であり,無駄な内視鏡検査を回避できる可能性がある.