Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画2 超音波による硬さの評価
特別演題企画4 領域横断:硬さの臨床 各領域で硬さは何を意味するのか?

(S143)

肝臓外科領域におけるエラストグラフィ-Virtual palpationの実現に向けて

Elastography in liver surgery-Virtual palpation for non-palpable tumors-

井上 陽介, 長谷川 潔, 大道 清彦, 高橋 道郎, 金子 順一, 青木 琢, 田村 純人, 別宮 好文, 菅原 寧彦, 國土 典宏

Yosuke INOUE, Kiyoshi HASEGAWA, Kiyohiko OMICHI, Michiro TAKAHASHI, Junichi KANEKO, Taku AOKI, Sumihito TAMURA, Yoshifumi BECK, Yasuhiko SUGAWARA, Norihiro KOKUDO

東京大学肝胆膵外科

Department of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery, Tokyo University Hospital

キーワード :

【背景・目的】
エラストグラフィが肝疾患の診断に応用されるようになり久しい.内科領域では,びまん性肝疾患の診断のためのTransient elastography(TE),Real-time Elastography(RE)で数多くの報告が見られるが,肝臓外科領域でのエラストグラフィの報告は少ない.当科ではREを肝切除術に,TEを肝移植術後患者に適用し,その有用性を報告した.しかし当時のREは処理速度が遅く,実際の手術中という時間的制限に阻まれ,TEも,移植術後という特殊な状態での適用という制限のため,それぞれ性能を十分に発揮できたとは言い難い.Real-time tissue elastography(RTE)は,高速フレーム処理によるRTEの動画表示が可能であり,肝臓外科領域においてもその有用性が期待されるモダリティである.今回我々は,術中プローブによるRTEを初めて肝切除術に適用し,その有用性を検討した.
【方法】
2010年10月以降,当科で切除される肝腫瘤性病変を対象とし,術中B-mode超音波の後に,術中RTE(IORTE)を施行した.ミニリニア型プローブ,ミニコンベックスプローブを採用し,術中RTEにおけるプローブ間の診断能(腫瘍検出率,質的診断能,所要検査時間),およびinter-observer differenceにつき検討する.
【結果】
試験開始から2ヶ月の時点で25症例(肝細胞癌21個,転移性肝癌10個,肝内胆管癌2個,良性腫瘤3個)にIORTEを適用した.術前体外式RTEによる,病変の描出率はわずか6%であったが,術中適用することで,すべての病変の描出が可能であった.さらに症例を蓄積して本会にて発表する.
【考察】
肝臓外科領域におけるエラストグラフィの特徴は,直接肝に当て,アーチファクトの少ない画像が得られる点である.体表RTEでは,腫瘍の局在が肝深部になると弾性画像を得ることが困難であるが,IORTEでは,深部に腫瘤があっても肝の授動後にあらゆる方向からプローブを当てることが適用することが可能で,肝腫瘤の存在診断,質的診断ともに術中B-mode超音波の補助的な役割を担うことができる.またソナゾイドなどの造影超音波のような肝細胞相までの待ち時間が不要で,血流遮断後は使用できないといった制約もないため,触知不可能でBモードで描出困難な腫瘍を切除する際など,その位置確認,肝切除のガイドのために,必要時に瞬時に繰り返し利用することが可能である.
【結論】
肝臓外科領域において「硬さ」の情報は,肝切除手術中における腫瘤性病変の存在診断,質的診断の精度を向上させ,肝切除のガイドとしても有用である.今後,肝臓外科領域でも鏡視下手術が主流となることが予想される.実際の触診が不可能な鏡視下手術において,エラストグラフィは「視覚的触診/疑似的触診」としての役割を担うと予想される.