Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画2 超音波による硬さの評価
特別演題企画4 領域横断:硬さの臨床 各領域で硬さは何を意味するのか?

(S143)

Virtual Touch Tissue Quantificationによる心筋の硬さの評価

Quantitative assessment of myocardial stiffness using Virtual Touch Tissue Quantification

浅沼 俊彦, 増田 佳純, 中谷 敏

Toshihiko ASANUMA, Kasumi MASUDA, Satoshi NAKATANI

大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学講座

Division of Functional Diagnostics, Osaka University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
 生体における組織の硬さは重要な情報である.循環器領域では,血管が動脈硬化とともに硬くなることは周知のことだが,心臓も組織の線維化とともに硬くなる.左室が硬くなれば拡張能は低下し,拡張末期圧は上昇する.このように,組織の硬さを知ることができれば診断や重症度評価に有用だが,心筋の硬さを非侵襲的に評価することは容易ではなかった.
 近年開発されたVirtual Touch Tissue Quantification (VTTQ)は収束超音波パルス(プッシュパルス)を照射し,音響放射圧で組織を押すことで,その組織の硬さを評価する技術である.プッシュパルスで変位させられた組織は,プッシュパルスが止むと元の位置に戻り始めるが,その際にせん断弾性波が発生し,組織の変位方向に対して直角方向に横波として伝播する.このせん断弾性波の伝播速度(Vs)は硬い組織では高値を,柔らかい組織では低値を示すため,これを測定することで局所組織の硬さの推定ができる.
 心臓,特に左室の硬さの評価には,左室圧と左室容積の情報が必要である.しかし,非侵襲的に左室圧を知ることは難しい.現時点では,VTTQはセクタプローブでは使用できないので,心筋での検討は限定されているが,心筋においてVsが測定できれば,圧容積関係を観察しなくても左室の硬さを評価できるかもしれない.われわれは動物実験を行い,左室短軸像の各領域におけるVs測定の再現性を検討した.
【方法】
 麻酔開胸犬5頭にて,Acuson S2000(持田シーメンス)を用いて左室短軸像を描出した.短軸上0時(前壁),3時(側壁),6時(後壁),9時(中隔)の位置に関心領域を置き,Vsをそれぞれの領域で30回ずつ測定した.測定は一時的に人工呼吸器を停止させた状態で行ったが,プッシュパルス照射は心電図同期できないため,測定の時相はランダムに行われた.また,エタノールを前壁に注入し,同部位で注入前後のVsを測定した.
【結果】
 測定可能であった回数は30回中,前壁10.3(34%),側壁7.0(23%),後壁12.3(41%),中隔3.5回(12%)と,前壁と後壁で高い傾向があった.各領域のVs値は,前壁0.89 ± 0.30,側壁1.02 ± 0.86,後壁1.04 ± 0.57,中隔1.07 ± 0.70 m/sと,前壁と比べ他の領域でばらつきが大きかった.エタノール注入後,前壁のVsは有意に増加した(0.91 ± 0.13 vs. 2.37 ± 0.52 m/s,p < 0.01).
【結語】
 動的臓器である心臓ではVTTQによるVs測定は困難が予想されたが,前壁では比較的安定した測定値を得ることができた.しかし,他の領域での再現性は十分とは言えず,心電図同期による測定が必須であると思われる.エタノール注入前後では有意な変化が生じていることから,将来的には,本法による心筋の硬さの定量評価は十分可能であると考えられる.