Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画2 超音波による硬さの評価
特別演題企画4 領域横断:硬さの臨床 各領域で硬さは何を意味するのか?

(S141)

消化管疾患に対するElastographyの応用

Application of Elastography to gastrointestinal disease

飯田 あい1, 畠 二郎1, 眞部 紀明1, 今村 祐志1, 神崎 智子2, 筒井 英明2, 山下 直人3, 楠 裕明3, 春間 賢2

Ai IIDA1, Jiro HATA1, Noriaki MANABE1, Hiroshi IMAMURA1, Tomoko KANZAKI2, Hideaki TSUTUI2, Naoto YAMASHITA3, Hiroaki KUSUNOKI3, Ken HARUMA2

1川崎医科大学検査診断学, 2川崎医科大学消化管内科学, 3川崎医科大学総合診療部

1Department of Clinical Pathology and Laboratory, Kawasaki Medical School, 2Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, 3Department of General Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【目的】
消化管疾患の超音波診断上,壁の硬さは炎症性疾患と腫瘍性疾患の鑑別などに有用であり,詳細な診断に役立つ.超音波を用いて組織弾性を客観的に映像化する手法としてElastographyが注目されており,乳腺,甲状腺,前立腺,肝臓,膵臓などの領域で有用性が報告されているが,消化管疾患に対する有用性の検討に関する報告は皆無に等しい.そこで消化管疾患におけるElastographyの有用性を検討した.
【対象と方法】
各種疾患症例72例(胃癌25例,大腸癌20例,クローン病13例,小腸悪性リンパ腫5例,十二指腸癌1例,放射性腸炎1例,潰瘍性大腸炎3例,感染性腸炎3例,胃潰瘍1例)を対象とした.超音波装置は東芝社製SSA-790A,8 MHzリニアプローブを用いた.全例特殊な前処置は施行せず,病変が明瞭に描出される部位で呼吸を停止し,病変直上においてプローブで用手圧迫を行った後に機器内蔵のソフトを用いてストレイン値を算出した.病変ならびに近接する正常壁両部位のストレイン値を測定し,正常壁のストレイン値を病変のストレイン値で除した値(以下N/L比)を病変の硬さを反映する指標として使用した.病理学的検討では,胃癌手術症例16例の標本に対しマッソントリクローム・ワイゲルトレゾルシンフクシン染色を行い,線維化の程度を比較した.なお本研究は院内倫理委員会の承認ならびに患者からのinformed consentを得て行っている.
【結果】
全例においてストレイン値の測定は可能であり,圧迫など検査手技に伴う重大な問題は経験しなかった.N/L比は胃癌25.0±24.7(mean ± SD),大腸癌16.6±15.1,クローン病の狭窄性病変7.1±7.5,小腸悪性リンパ腫9.1±11.2,十二指腸癌35.5,放射性腸炎4.7,潰瘍性大腸炎5.1±4.3,感染性腸炎1.3±0.2,胃潰瘍41.64であった.臨床上有用であると考えられる胃癌と悪性リンパ腫のN/L比は有意確率0.042(<0.05)であり有意差が得られた.また,クローン病と感染性腸炎のN/L比では, 有意確率0.016(<0.05)と有意差が得られたことから,急性期の腸炎による炎症に比べクローン病による線維化は硬いことをElastographyで評価することができた.胃癌症例の病理学的比較では,線維化の多い症例と少ない症例でそれぞれ術前のN/L比が33.8±29.1,8.3±5.0,有意確率0.010(<0.05)であり,線維化の量が癌の硬さを規定する因子であると考えられた.消化管においてもその測定値はある程度の信頼性を有しているものと考えられた.
【考察】
組織の過剰な繊維化などにより消化管の癌は正常組織と比べて硬いものが多いとされているが,今回の検討においていずれの癌も正常壁に比較して低いストレイン値を呈していたことから腹腔内の管腔臓器である消化管においてもある程度の評価が可能と思われた.乳腺や甲状腺などの体表臓器と異なり,外力が直接伝わりにくい部位であると思われるが,圧迫による腹腔コンパートメントの圧上昇などもひずみを生ずる原因になっている可能性も推測された.ただし病変に加わる外力を基準化することは非常に困難であり,従ってストレイン値そのものは異なる個体間での比較に適さないと考えられることから本研究においては近接する正常組織との比を採用した.今回の検討では,組織学的に線維化を伴う箇所のストレイン比が,高値を示すと考えられた.しかし個々の症例によりストレイン比にばらつきが見られ,真に組織性状を反映した結果であるのか,測定誤差など他の要因が介入しているのかなどに関しては今後の継続検討を要する.
【結語】
Elastographyの消化管領域における臨床応用の可能性が示唆された.今後鑑別診断を含めたより詳細な病態の評価法として期待される.