Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画2 超音波による硬さの評価
特別演題企画4 領域横断:硬さの臨床 各領域で硬さは何を意味するのか?

(S140)

甲状腺の弾性評価

Elasticity of Thyroid Gland

貴田岡 正史

Masafumi KITAOKA

公立昭和病院内分泌・代謝内科

Division of Endocrinology and Metabolism, Showa General Hospital

キーワード :

【目的】
甲状腺は表在臓器であり,そのため組織弾性評価は他の領域に比べて比較的早い時期から臨床応用が試みられてきた.即ち,組織弾性評価を基にしてBasedow病や慢性甲状腺炎など病態が評価可能か否か,腫瘍の硬さを良悪性の鑑別に利用できるかどうかが研究されてきた.しかし甲状腺は前頚部に存在することから外部入力による歪みを指標とする組織弾性評価には問題点も指摘されていた.術者のスキルよる違いや,複雑な生体内の構造による外部入力の不均一化や組織間のズレなどによるアーチファクトが存在する点である.また組織の歪みを弾性評価の指標としており,加える外圧が大きく変動し数値パラメーターとして演算困難であるため,定量性に欠けていた.これらの点を解決する一つの方法として音響放射圧(Acoustic Radiation Force Impulse ARFI)によって組織にひずみを生じさせ,それが元に戻ろうとする際に生じる剪断弾性波(shear wave)の速さ(Vs)を測定して組織の硬さの評価する装置が臨床応用されており,VTTQ(Virtual Touch Tissue Quantification)はそのひとつである.今回,甲状腺超音波検査にVTTQを用い,その臨床的有用性について検討を行った.
【対象】
まず,正常甲状腺16例について検討した.ついで当院で甲状腺超音波検査を行った患者を検討対象とした.疾患の内訳は,びまん性甲状腺疾患としてBasedow病,慢性甲状腺炎,また腫瘍性病変として,腺腫様甲状腺腫,濾胞性腫瘍,腫大副甲状腺(二次性副甲状腺機能亢進症)についても検討した.
【方法】
機器はSiemens Medical Solutions USA社製のACUSON S2000を使用した.関心領域にshear wave 測定のROIを設定し,計測は同一部位で同一条件のもとに連続して5回測定し,その平均値をその部位のVs値とした.正常対象を含みこれまで甲状腺弾性評価のリファレンスとして用いられてきた胸鎖乳突筋についても検討した.
【結果】
各測定部位における個々の測定値の変動係数は0.6〜43.1%で中央値は7.4%だった.特に縦断面では,甲状腺は呼吸動揺が存在し,これが測定値の変動に関わるため,Vsを測定時被検者は一時的に息止めをして検査を施行する必要があった.また検者がプローブを皮膚に押し当てる際の圧力でも値が明らかに変わることが確認され,検査時にはプローブによる外力が生体にできるだけ及ばない手技が重要であった.胸鎖乳突筋は筋繊維の走行によりVsに相違が認められた.即ち筋繊維走行に直交する断面のVsは平行する断面のVsより有意に低値を示し,組織弾性評価には生体内の生理的組織構造の特異性に留意することが必要であることが明らかとなった.びまん性疾患においては,Basedow病は甲状腺が軟らかく,慢性甲状腺炎は硬いという従来の理学所見に合致する傾向が観察された.
【結語】
VTTQは甲状腺領域における組織弾性評価として臨床的に有用と考えられた.弾性度を定量化することが可能で,再現性が良く,検査が術者のスキルに負わない点で優れている.しかしその検査値を十分な精度で得るためには,検査法の標準化が重要であった.