Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画2 超音波による硬さの評価
特別演題企画3 領域横断:硬さの基礎 硬さを測る方法を整理して理解する

(S137)

動脈硬化診断と硬さ計測

Measurement of Artery-Wall Elasticity for Diagnosis of Atherosclerosis

長谷川 英之1, 2, 金井 浩1, 2

Hideyuki HASEGAWA1, 2, Hiroshi KANAI1, 2

1東北大学大学院医工学研究科, 2東北大学大学院工学研究科

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

動脈硬化の進展とともに動脈壁の組織性状は変化し,それにより壁の弾性特性(硬さ)も大きく変化することは良く知られた事実である[1].動脈硬化症の定量診断を目指した,動脈壁の弾性特性計測に関する研究は古くから行われており,それらの方法は大きく2つに分けられる.1つは,血管を伝播する弾性波(ずり波)の速度を計測する方法で,代表的なものとして脈波伝播速度法がある[2].標準的な脈波速度法では,頸動脈と股動脈における脈波波形を計測して,2つの計測波形の立ち上り時刻の差から伝播時間を決定している.心臓から股動脈までの数十cm間の平均的な弾性特性の評価ではあるが,簡便な動脈硬化の診断法として用いられている.近年では,超音波照射時の音響放射圧により動脈壁の振動を発生させ,その伝播速度を局所で計測することにより,硬さ計測の空間分解能を向上させる手法が開発されている[3].これらの方法は,硬さを定量的に診断できる点が長所である反面,生体中を伝播できる(検出可能な)ずり波の周波数には限界があり,空間分解能はずり波の波長に制限される.
もう1つは,生体組織に応力が加わったときの変形量(ひずみ)を超音波などで計測する手法である.代表的なものとして,スティフネスパラメータβがある[4].この方法は,脈圧による血管径変化(血管を壁厚の均一な円筒管と仮定した場合の円周方向ひずみに対応)を計測するものである.変形量そのものは,同じ血管でも脈圧(応力)が大きい場合と小さい場合で異なってしまい,硬さを表すパラメータとしては不都合であることから,変形量を脈圧で規格化することにより硬さを表すパラメータとしている.この物理的意味としては,単位ひずみ(変形量)を発生させるために必要な脈圧(応力)であり,このパラメータが大きいほど,ある変形量を発生させるために必要な力が大きい(硬い)ということを示している.スティフネスパラメータβは動脈のある短軸断面における硬さを評価することができるが,径変化から算出する円周方向ひずみは円周全体の平均的な弾性特性に依存するため,測定しているものは円周全体の平均的な特性となる.本研究グループは,動脈壁の厚みが,心1拍内の血圧変化により僅かに(数十ミクロン)変化することに着目し,この微小な変形量(径方向ひずみ)を計測できる手法を開発した[5,6].これにより,超音波ビームの焦域(サブミリ)程度の領域の局所変形量を計測することが可能となった.我々の手法も,脈圧で径方向ひずみを規格化することで硬さを表現(弾性率Eθ)しており,Eθは動脈壁が円筒管とみなせる場合には血管壁の局所(超音波ビーム焦域程度の)弾性率に対応する.動脈硬化性プラークが存在し,形・弾性特性分布ともに不均一な場合には応力分布の推定が困難なため,厳密に弾性率を決定することは難しいが,動脈病変局所の変形状態(可動性)を評価する指標(脈圧で規格化しているため,脈圧が変動しても比較が可能)として,動脈硬化病変の易破裂性診断などに有用な指標となりうると考えている.
参考文献
[1]J. T. Lee, et al.: Circulation, 1991.
[2]長谷川元治: 慈医誌, 1970.
[3]M. Couade, et al.: Ultrasound Med Biol, 2010.
[4]K. Hayashi, et al.: J Biomech, 1980.
[5]H. Kanai, et al.: IEEE Trans UFFC, 1996.
[6]H. Hasegawa and H. Kanai: IEEE Trans UFFC, 2008.