Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画2 超音波による硬さの評価
特別演題企画3 領域横断:硬さの基礎 硬さを測る方法を整理して理解する

(S136)

がん診断と硬さ計測-歪み画像に及ぼす要因

Cancer Diagnosis and Elasticity Imaging -Factor of artifact in strain image-

山川 誠1, 椎名 毅2

Makoto YAMAKAWA1, Tsuyoshi SHIINA2

1京都大学先端医工学研究ユニット, 2京都大学医学研究科

1Advanced Biomedical Engineering Research Unit, Kyoto University, 2Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

 近年,組織の硬さを画像化する装置が普及してきており,様々な分野で応用が試みられている.ここではその中でも歪み画像を診断に利用する際に注意すべき点をいくつか示す.
【組織圧迫強度の影響】
 生体組織は単純な弾性体ではなく非線形弾性特性を示す.すなわち,圧迫強度が強くなるほど見かけのヤング率が大きくなる.そして,最近の研究では,脂肪と乳癌ではこの非線形特性が異なり,圧迫強度が弱いときは乳癌の方が脂肪よりも見かけのヤング率が10倍以上大きいが,圧迫強度を強くしていくと脂肪と乳癌の見かけのヤング率が近づいてくることがわかっている.そのため,乳癌診断においては微小な圧迫で計測をした方が歪み画像のコントラストが高くなり良いとされている.ただし,この非線形弾性特性を利用することで診断精度向上の可能性もあるため,各組織の非線形弾性特性のさらなる研究が求められている.
【応力集中によるアーチファクト】
 体表に一様な圧力を加えたとしても生体内ではヤング率分布が一様ではないため,一様な応力分布とはならない.特に,硬い腫瘍などがあるとその腫瘍の上下に応力が集中する(なお,腫瘍の左右にも上下ほどではないが応力が集中する).よって,その部分ではその他の正常な部分よりも歪みが大きくなってしまい,歪み分布をそのまま硬さ分布と解釈してしまうと腫瘍の上下(左右)に軟らかいものがあると誤解してしまうので注意が必要である.
【応力減衰によるアーチファクト】
 歪み分布計測においては基本的に体表から圧迫して,それにより生じた生体内での歪みを計測している.しかし,体表からプローブにより加えた圧力は深部ほど応力が広がってしまうため,深部ほど応力が減衰してしまう.よって,同じ硬さの組織であっても歪み分布では深部ほど歪みが小さくなってしまう.また,浅い部分であっても硬い組織に覆われているような場合には内部に応力が伝わらず歪みも小さく表示されてしまうので注意が必要である.
【境界条件によるアーチファクト】
 歪み分布推定においては,まず組織内部の深さ方向の動き(変位)を検出し,変位分布を深さ方向に微分することで歪み分布を求めている.そのため,異なる組織の間の境界ですべりが生じる場合,この境界において変位分布が大きく変化する.よって,歪み分布を求めるとすべりがある境界部分では歪みが大きくなってしまう.ただし,このような現象を利用して腫瘍などの境界の歪みを調べることで腫瘍と周辺組織の結びつきの状態を調べる研究も行われている.
【嚢胞などエコー信号が弱い領域でのアーチファクト】
 嚢胞の歪み分布を計測すると青-緑-赤の縞状のパターンを示すことが知られている.これは嚢胞などエコー信号強度が非常に弱い部分では変位分布推定が正しく行えず,また平滑化等の影響もあり,嚢胞部分では変位分布において谷ができてしまう.よって,この変位分布を微分すると歪み分布において小(青)-中(緑)-大(赤)の縞状のパターンが生じる.なお,実際には最初の境界付近では負の歪みとなるが歪み分布における平滑化によって正の小さな値となる.なお,平滑化をしても負の部分が残る場合は歪み分布において色が付かずに抜けることもある.実際にはこのパターンはアーチファクトであるが嚢胞を示すパターンとして診断に使用することもできる.この他,圧迫スピードによる影響や関心領域のサイズによる影響などもある.これらの歪み画像特有のアーチファクトは診断の際,注意すべき点ではあるが,要因を正しく理解すれば診断に有効利用することも可能である.