Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画1 心臓を診る
特別演題企画2 循環器:血流評価法を整理して理解する

(S131)

知っておきたい流体力学

An introduction to fluid dynamics

菅原 基晃

Motoaki SUGAWARA

姫路獨協大学臨床工学科

Medical Engineering, Himeji Dokkyo University

キーワード :

 狭窄部は,その上流の内腔断面積が大きい部分,断面が最も狭いスロート(throat)部,およびスロートを過ぎて下流で再び断面が広がる部分に分けられる.上流側からスロートまではエネルギー損失はほとんどないので,ベルヌーイの定理はそのまま成り立ち,簡易ベルヌーイ式はスロート部の静圧を正確に与える.スロートの下流で断面が急に拡大している場合は,この部分で流れの剥離が起こり,ベルヌーイの定理にしたがって圧力から運動エネルギーに変換されたエネルギーが熱に変わりほぼ完全に失われる.すると,スロートで一番低くなった静圧は,下流へいってもそのままで回復することはない,つまり簡易ベルヌーイ式は正しい値を与える.一方,スロートの下流の断面がゆるやかに拡大している場合は,流れの剥離は起こりにくく運動エネルギーの損失も少ない.すると,スロート下流で断面積が広がるにつれ運動エネルギーが再び圧力に変換されて,静圧が上がってくる.これを圧力の回復という.圧力の回復が大きいと簡易ベルヌーイの式は成り立たない.
 心室内の血流を流線や速度ベクトルでmappingして,心機能と関連づけようという試みがある.正しい流線や速度ベクトル分布を得る最も確かな方法は,実測することである.しかし,現在の技術では,実測だけでmappingを得るのは難しいので,Computational Fluid Dynamics(CFD)に頼ることになる.時間的に動く心室壁内面を境界とする心内流れをCFDで解くことは,全く不可能というわけではない.しかし,動く境界は,CFDが最も苦手とするところである.
 ドプラ法で得た超音波ビーム方向の速度成分をうまく取り込んで,連続の式だけで解を得ようという方法も提案されている.一見巧妙な方法であるが,基礎方程式の階数を減らしたため,壁の動く速度の壁面に平行な成分(長軸方向の短縮と伸展)を境界条件に取り込めなくなっている.この成分は心機能にとって本質的な成分ではないだろうか.
 壁の動きとこれに接する流体の動きは全く同じといういわゆるno slip conditionを満たすようにして,拡張期の心内血流をCFDで解いた例を図に示す. No slip conditionを満たすと,流線はすべて心室壁から出ていることに注意されたい.(この計算はパソコンのレベルでは無理である.)