Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画1 心臓を診る
特別演題企画2 循環器:血流評価法を整理して理解する

(S130)

カラードプラによる血流評価とその問題点

Color flow imaging using Doppler technique: Its usefulness and limitation

岩永 史郎

Shiro IWANAGA

東京医科大学八王子医療センター循環器内科

Department of Cardiology, Tokyo Medical University, Hachioji Medical Center

キーワード :

 弁逸脱の偏心性逆流モザイクをカラードプラ法で観察すると,きれいに描出される断面と血流がよく見えない断面があることに気付いたことはないだろうか? 連続波ドプラ法やパルスドプラ法で血流を計測する際には,だれでも血流の方向に注意して記録する.しかし,カラードプラ像ではドプラ法の角度依存性についてあまり注意が払われていない.人間の眼に盲点があるように,カラードプラ法にも角度依存性という盲点が存在する.
 超音波周波数偏位から速度を算出するドプラ法では,血流速度自体が計測できるのではなく,超音波ビーム方向の速度成分が計測される.ビームと血流のなす角度θによって決まるcos θという係数が間に介在する.具体的には,θが25度までであれば誤差を10%以内に収めることができる.これまでに使用されてきた種々の血流計測法から考えると,誤差10%でも十分な精度といえる.θが30度以上の場合には角度補正が推奨されるが,60度の角度差がある場合には角度補正を行っても補正角が3.2度ずれると5%,6.4度ずれると10%の誤差を生み出す.θが60度を越えると角度補正しても十分な精度は得られない.3次元的な心腔を2次元で観察する断層像では,血流が断面を横切る場合,つまり血流全長が断面上にない時には正確な角度補正は困難となる.
 カラードプラ法で角度依存性が見落とされた典型例がPISA法である.吸込み血流の大きさ(PISA)で逆流を定量化するこの方法は,流体が広い空間から平面上の穴に流れ込む場合,速度が穴からの距離を半径とする半球表面積に反比例するという物理法則に基づく.PISAが半球形という条件が満たされても,ドプラ法で計測する限り角度依存性から逃れることはできない.カラードプラ像のPISAは半球形にはならない.図はMR吸込み血流であるが,弁近くでは血流とビームのなす角度が90度近くになり,血流が欠損したように記録される.
 血流は,ビームに直交する場合にカラードプラ像で過小評価され,見えにくくなる.これはプローブからの深度を半径とする円弧方向に血液が流れる場合におこり,弁逸脱による偏心性逆流の診断が困難な一因となっている.血流全長を断面上に描出すること,その血流がビームと平行になるようにプローブ位置を調節することが重要であり,その努力をしてもドプラ法の角度依存性をカラードプラ像から完全に取り除くことは困難であると認識して検査を行う必要がある.