竹内 正明

Masaaki TAKEUCHI

産業医科大学第二内科

Second Department of Internal Medicine, University of Occupational and Environmental Health, School of Medicine

キーワード :

三次元心エコー法を用いて左室の壁運動評価をするには心尖部アプローチによる連続4心拍あるいは7心拍でのフルボリュームデータの収集が必要である．通常は4心拍のサブボリュームからフルボリュームデータを構築するが，小児や負荷心エコーの最大負荷時のように心拍数が上昇している場合はボリュームレートが低いと微細な壁運動異常の出現を見逃したり，ボリュームレートが低いために見かけ上の壁運動異常が出現する場合があり，連続7心拍による画像収集の方が良い事もある．得られたフルボリュームデータをオフラインソフトを用いて，心尖部から心基部に等間隔に切り出した短軸9断面あるいは心尖4，2，長軸断面プラス心尖部から心基部に等間隔に切り出した短軸6断面を同時描出し，局所壁運動の評価をする事が可能である．この方法には以下のような利点が存在する．
1）:　三次元エコーにより得られた二次元短軸断層像は左室長軸像に直交する真の短軸像であるため，短軸断面が斜め切りだった事により生じる下後壁の偽性壁運動異常の出現を防ぐ事が可能である．
2）:　9断面同時表示から得られる情報は二次元断層心エコーの標準4断面より明らかに情報が多く，壁運動異常の正確な評価が可能となる例も存在する．3）:　二次元断層心エコーを用いて記録した断層像と同一の断層像を3次元心エコーから切り出す事により自分がどのような断面を切っていたかを理解できる事は心エコー画像収集の能力を向上させる事に役立つ．また現在の三次元心エコー画像から切り出した二次元心エコー断層像は通常の二次元断層心エコーから得られた断層像に比べ空間分解能に劣るがスライス幅を厚くする事で心内膜部のエコー欠損部を補〓する事ができる事があり，時に有用な方法である．一方三次元心エコーによる左室壁運動の定量化の方法としては拡張末期，収縮末期の左室心内膜を用手的にトレースし，定量化ソフトを用いて左室17分節の局所一回拍出量を算出しグラブ表示し，かつ重心方向への局所壁の移動距離をパラメトリック表示する方法と，三次元スペクルトラッキング法により左室局所のストレイン値を計測する方法がある．後者の方法の方が将来性は高いが，三次元スペクルトラッキング法の精度は得られた画質に依存する事，トラッキングが本当に正確かどうかを検査施行者が評価できない事等の問題点を有しており，現状では時間空間分解能に明らかに劣る三次元データを用いた三次元スペクルトラッキング法が二次元スペクルトラッキング法より正確であると言い切る事はできないことを強調したい．しかしながら三次元心エコープローブのさらなる小型化，画質，ボリュームレートを維持した1心拍フルボリュームデータ収集が可能となれば，近い将来三次元心エコープローブ1本で全ての壁運動評価が施行できる時代は決して遠くはないと思われる．