Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2011 - Vol.38

Vol.38 No.Supplement

特別企画
特別企画1 心臓を診る
特別演題企画1 循環器:壁運動評価法を整理して理解する

(S125)

虚血による心筋ストレインの経時的変化-スペックルトラッキング法を用いた検討-

Abnormal Regional Left Ventricular Systolic and Diastolic Function in Patients with Coronary Artery Disease

石井 克尚

Katsuhisa ISHII

関西電力病院循環器内科

Cardiology, Kansai Electric Power Hospital

キーワード :

心エコー法による心筋虚血の診断には壁運動の評価が重要であり,この壁運動を解析する新たな方法として開発されたのがスペックルトラッキング心エコー法である.スペックルトラッキングは,パターンマッチング技術をB-mode超音波画像に応用したものであり,ドプラ情報を用いないため従来の組織ドプラ(TDI)法と異なり角度依存性が無いことが大きな特徴である.このトラッキングによって心筋局所のさまざまな方向のストレインを求めることが可能となり,リアルタイムで心筋局所の収縮・拡張運動を観察することができる.正常領域におけるストレインは収縮期末期すなわち大動脈閉鎖時間に一致して最も高値となり(peak strain),等容拡張期から拡張早期に急激に低下する.その後diastasis(緩徐流入期)を経て心房収縮により最終的に元の心筋壁厚に戻る.これに対し虚血領域ではpeak strainまでの時間が延長し,これに伴い拡張運動遅延が生じると考えられている.我々は,労作性狭心症患者において経皮的冠動脈形成術 (PCI)中および終了後にスペックルトラッキング心エコー法を用いて左室局所の収縮・拡張運動を観察した.バルーンインフレーション20秒後において左室虚血領域においてpeak systolic strainに有意な低下は認めないが,すでにpostsystolic shortening (PSS)が観察された.バルーンインフレーション50秒後では著明なpeak systolic strainの低下を認めた.即ち,虚血発作時において拡張能障害が収縮能障害に先んじて観察されスペックルトラッキング心エコー法を用いることによりPCI中にischemic cascadeが非侵襲的に観察可能であった.一方バルーンデフレーション直後では虚血領域において反応性充血のためpeak systolic strainは前値を凌駕したが,虚血領域に著明な拡張運動遅延が観察された.peak systolic strainはバルーンデフレーション2分後にはほぼ前値に戻ったが,虚血領域の心尖部において拡張運動遅延は24時間後も観察された.以上のように虚血による心筋局所の収縮・拡張運動の変化は全く異なり,虚血により収縮障害は遅れて出現し,虚血解除により早期に回復する.一方,拡張障害は虚血早期に出現し,虚血解除後ゆっくりと回復した.この一過性の心筋虚血後に収縮運動が回復後も遷延する左室局所の拡張運動遅延がdiastolic stunningである.スペックルトラッキング心エコー法を用いてdiastolic stunningを検出することは虚血性心疾患診断のパラダイムシフトとなり,日常臨床において心エコー法の有用性がさらに重要になると考えられる.