宮崎 のどか, 伊尾 紳吾, 大塚 祐基, 古株 哲也, 邨瀬 智彦, 長谷川 育子, 田中 和東, 原田 統子, 岸上 靖幸, 小口 秀紀

Nodoka MIYAZAKI, Shingo IO, Yuki OTSUKA, Tetsuya KOKABU, Tomohiko MURASE, Ikuko HASEGAWA, Kazuharu TANAKA, Toko HARATA, Yasuyuki KISHIGAMI, Hidenori OGUCHI

トヨタ記念病院周産期母子医療センター産科

Department of Obstetrics, Perinatal Medical Center, Toyota Memorial Hospital

キーワード :

【緒言】
胎児貧血の評価は羊水穿刺による羊水分析や臍帯穿刺による胎児採血が行われてきたが，いずれも侵襲的である1）．近年，胎児貧血の間接的な評価の指標として，超音波ドプラ法を用いた胎児中大脳動脈（middle cerebral artery; MCA）血流の収縮期最高速度（peak systolic velocity; PSV）の有用性がMariらによって報告された1）．MCA-PSVの妊娠週数における中央値の1.5MoM（multiples of the median）以上の増加が認められる場合，胎児輸血の適応となる重症貧血が存在すると考えられている2）．また，IUGR児では貧血がなくても，胎児の低酸素血症，高二酸化炭素血漿から血流再配分のためにMCA-PSVが上昇すると報告されている3）．今回我々は，NSTでSinusoidal Patternを認め，胎児機能不全と診断した胎児のMCA-PSV値が異常高値を示し，出生児に低酸素血症，高二酸化炭素血症を認めた1例を経験したので報告する．
【症例】
37歳，1経妊1経産．前医で妊婦健診を受けていたが，特に異常は指摘されていなかった．妊娠28週5日に突然大量の性器出血を認め，前医を受診．子宮口は未開大であったが，頻回の子宮収縮を認め，切迫早産，胎盤辺縁静脈洞からの出血の疑いで，入院治療となった．入院後はリトドリン塩酸塩の点滴で性器出血は止まり，子宮収縮はおさまっていた．妊娠30週2日，再度大量の性器出血，頻回の子宮収縮認め，子宮口は2cm開大しており，当院へ母体搬送となった．来院時，子宮口2cm開大し，多量の性器出血を認めた．超音波断層法では，胎児は第2骨盤位で，推定体重1448 gとIUGRは認めなかった．羊水量は正常であった．胎盤は胎盤早期剥離を示唆する肥厚像は認めなかったが，内子宮口と胎盤辺縁までの距離は17.2mmであった．MCA-PSVは71.6 cm/secと中央値の1.5MoMを超えていた．前医のNSTでは，Sinusoidal Pattenを認め，低位胎盤，胎児機能不全の診断で緊急帝王切開術を施行した．出生児は女児，1316g，Apgar score 2/7で，臍帯動脈血pHは7.462，pCO2は59.8 mmHg，pO2は9.7 mmHgであり，低酸素血症，高二酸化炭素血症を認めた．新生児採血ではHb 13.9g/dl，Ht 41.6％であり，貧血は認めなかった．
【結論】
今回，NST上Sinusoidal Patternを認める胎児のMCA-PSV値が中央値の1.5MoMを超える上昇を認め，出生児に貧血がなく，低酸素血症，高二酸化炭素血症を認めた症例を経験した．超音波ドプラ法によるMCA-PSVの測定は簡便かつ低侵襲で繰り返し施行できるといった利点があり，胎児貧血だけでなく，胎児の低酸素血症，高二酸化炭素血症の診断にも有用である可能性が示唆された．
【参考文献】
1）Mari G.：Middle cerebral artery peak systolic velocity for the diagnosis of fetal anemia, the untold story. Ultrasound Obstet Gynecol 25:323-330, 2005
2）Cosmi E, Mari G, Delle CL. et al.：Noninvasive diagnosis by doppler ultrasonography of fetal anemia resulting from parvovirus infection. Am J Obstet Gynecol 187:1290-1293, 2005
3）Hanif F, Drennan K, Mari G. ：Variables that affect the middle cerebral artery peak systolic velocity in fetuses with anemia and intrauterine growth restriction. Am J Perinatol 24:501-505, 2007