椎名 昌美¹, 保田 知生², 老木 正彰³, 井上 泰英¹, 尾谷 功³, 川島 麻紀³, 山本 嘉一郎¹

Masami SHIINA¹, Chikao YASUDA², Masaaki OIKI³, Yasuhide INOUE¹, Isao OTANI³, Maki KAWASHIMA³, Kaichiro YAMAMOTO¹

¹近畿大学医学部堺病院産婦人科, ²近畿大学医学部付属病院外科, ³老木レディスクリニック産婦人科

¹Obstetrics & Gynecology, Kinki University Sakai Hospital, ²Surgery, Kinki University School of Medicine, ³Obstetrics & Gynecology, Oiki Ladies Clinic

キーワード :

【目的】
妊娠中は循環血液量の増加や増大子宮による圧迫に起因する血流うっ滞，体重増加等に伴い，局所的あるいは全身に浮腫を生じる場合がある．特に下肢浮腫は日常臨床でよく見られる症状であり，妊娠中に脈管画像診断することなく経過観察する場合が多いと考えられる．深部静脈血栓症（DVT）は腫脹，疼痛，浮腫，色調変化，Homans徴候等の症状を認める疾患で，周産期を通して発症する可能性が高いことが知られている．分娩終了後に腫脹，浮腫が遷延し，DVTの診断を受けた産褥婦をみると，静脈エコー検査上血栓の形成時期が以外に時間経過しているものもある．これらを考えると，妊娠中に下肢浮腫を訴える症例の中に，DVTを合併している症例が含まれる可能性が考えられる．近年，周産期におけるDVTおよび肺塞栓症（PE）発症の危険性は高く，その検査および管理の必要性が注目されている．特に帝王切開術を受ける妊婦でその頻度は高くなるため，当院では積極的に出産後の抗凝固療法を導入している．しかし，周産期のDVTの発症時期はさまざまで，スクリーニング法，時期に関しては未だ確立されていない．そこで今回，妊娠中に下肢症状を訴えた症例の中から，急な症状の変化を認めた症例や自覚症状の強い症例に対し下肢超音波検査を行い，その有用性についての検討を行った．
【対象】
対象は妊婦健診中に症状を訴えた全37症例で，期間はH21.5月〜12月の8ヶ月間である．平均年齢は33.7歳（24-42歳），検査時期は症状を認めた時点で検査を行っているため，妊娠17週4日〜産褥28日目（前期；0例0％，中期；8例21.6％，後期；21例56.8％，産褥1週間以内；7例18.9％，産褥1ヶ月以内；1例2.7％）までとなった．
【方法】
妊婦健診中に下肢浮腫18症例48.6％，疼痛9症例24.3％，下肢静脈瘤12症例32.4％，しびれ1症例2.7％，Homans徴候2症例5.4％，D-Dimer上昇1症例2.7％の自他覚症状を認めた症例に対し，圧迫法およびカラードプラ法を用いて下肢超音波検査を行った．また，周産期を通して反復検査可能であったのは21症例56.8％（2回12例，3回9例）であった．
【結果】
下肢超音波検査の結果，深部静脈血栓症（DVT）8症例21.6％（遠位血栓7例，近位血栓（遠位血栓含む）1例），深部静脈弁不全症8症例21.6％，静脈瘤（下肢，会陰）16症例43.2％であった．検査後弾性ストッキング着用をはじめとする治療を行い分娩となったにもかかわらず，分娩後にDVTを発症あるいは増悪したのは3症例8.1％であった．
【結論】
妊娠期間を通して，DVTはその発症時期がさまざまであることから発症予測するのは困難である．ましてや全妊婦に対し下肢超音波検査を行うことは，一部機関を除いては不可能であろう．私たちは今回，有症状症例に対し適時検査を行うことで，診断確定し，分娩前後に血栓予防対策を行うことが可能であった．そして，診断確定時から血栓対策治療を行うことで，症状軽減や重症化を予防することができ，安全な周産期管理が可能となることを考えると，症状発現時に下肢超音波検査を行うことは有用であると考えられた．