Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科:母体合併症

(S515)

子宮筋腫合併経腟分娩の出血に関わる因子の検討

The examination of a factor about bleeding of the vaginal delivery with the myoma of the uterus

岸本 倫太郎, 木戸 浩一郎, 田口 彰則, 鎌田 英男, 松本 幸代, 松本 泰弘, 司馬 正浩, 梁 栄治, 綾部 琢哉

Rintaro KISHIMOTO, Kouichiro KIDO, Akinori TAGUCHI, Hideo KAMATA, Sachiyo MATSUMOTO, Yasuhiro MATSUMOTO, Masahiro SHIBA, Eiji RYOU, Takuya AYABE

帝京大学医学部附属病院産婦人科

The obstetrics and gynecology, Teikyo university

キーワード :

【背景】
近年,高齢妊娠が増加しているため,子宮筋腫合併妊娠に遭遇する機会も増えている.子宮筋腫合併妊娠では,分娩時の出血量は非合併妊娠に比べて増加するとされており,特に経腟分娩では人手の少ない時間帯での分娩も多く,出血多量となるハイリスク例が予測できれば臨床的に有用である.今回,当院における子宮筋腫合併妊娠で経腟分娩に至った症例を対象として,出血量に影響を与える因子を検討した.
【方法】
当院で2007年1月から2009年9月までに経腟分娩に至った子宮筋腫合併妊娠30例を調査対象群,また同期間中に子宮筋腫を合併せず経腟分娩に至った985例をコントロール群とした.症例を分娩台帳から抽出し,診療録の記載から後方視的に検討した.検討項目のひとつとして,調査対象群とコントロール群の分娩時出血量を比較し,また出血量500g以上の出血多量例の頻度を比較した.次に,調査対象群において,筋腫の個数,最大筋腫の大きさ,胎盤と胎盤に最も近い筋腫との位置関係を調べ,分娩時出血量との関係を検討した.最大筋腫の大きさは全妊娠経過を通して最長となった長径を,また,胎盤と筋腫の位置関係は,分娩の直近時に両者間の最短距離が2㎝未満であったかどうかを調査した.画像検査は超音波断層法にて行い,機種としてはMochida-siemens SONOVISTA C3000,SONOVISTA G40,SONOVISTA colorFD,GE Voluson E8を使用した.分娩時出血量が多量となる因子を抽出するために,500g以上の多量出血例の群と500g未満の群とに分け,筋腫数と最大筋腫の大きさについて差がないか比較検討した.また,胎盤と筋腫との位置関係と多量出血例の出現頻度について検討した.統計学的検討は,Mann-Whitney検定とχ2乗検定にて行い,P<0.05を有意差ありとした.
【結果】
同時期における子宮筋腫合併妊娠の経腟分娩例の出血量は400.8±226.4g(平均±SD)であったのに対し,コントロール群の出血量は360.6±259.9gで,両群の出血量に有意差は認められなかった(P=0.187).また,多量出血例は筋腫合併では30例中8例(26%),コントロール群985例中188例(19%)で有意差はなかった(P=0.300).多量出血群の筋腫数は2.1±1.4個であり,多量出血がなかった群の筋腫数は1.4±0.6個で有意差は認めなかった(P=0.291).多量出血群の最大筋腫は,6.38±1.80㎝,多量出血がなかった群の最大筋腫は4.55±1.70㎝で,有意差を認めた(P=0.041).多量出血群8例中,筋腫と胎盤との最短距離が2cm未満であったのが5例(63%)であったのに対して,多量出血がなかった群22例中,最短距離が2cm未満であったのは3例(14%)で,両者間に有意差を認めた(P=0.015).言い換えると,最短距離が2cm未満であった例が8例存在し,そのうち5例(63%)において500g以上の出血があった.
【考察】
今回の結果では子宮筋腫合併妊娠で出血が多いという結果にはならなかったが,これは出血のリスクを予測して早めに対応したことによる可能性もある.要因をしぼって検討した結果,①筋腫核が大きい②筋腫と胎盤との位置関係が近い場合には分娩時出血量が多くなることが示された.筋腫核が大きいと,分娩後に子宮収縮が妨げられる程度が大きいために出血量が多くなると考えられる.また,筋腫と胎盤が近い場合には胎盤剥離面に近い部位の子宮収縮が阻害されるために出血量が多くなると考えられる.子宮筋腫合併妊娠において多量出血となる例を予測することにより,分娩に向けての輸血の準備や自己血貯血の貯血量の決定などの参考になると考えられ,また,安全な時間帯での分娩誘発を検討する一助にもなり得ると考える.今後症例数を積み重ねて検討を続ける予定である.