Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科:母体合併症

(S514)

産褥性心筋症の発症予測

Prediction of Peripartum Cardiomyopathy

小口 秀紀, 宮崎 のどか, 伊尾 紳吾, 大塚 祐基, 古株 哲也, 邨瀬 智彦, 長谷川 育子, 田中 和東, 原田 統子, 岸上 靖幸

Hidenori OGUCHI, Nodoka MIYAZAKI, Shingo IO, Yuki OTSUKA, Tetsuya KOKABU, Tomohiko MURASE, Ikuko HASEGAWA, Kazuharu TANAKA, Toko HARATA, Yasuyuki KISHIGAMI

トヨタ記念病院周産期母子医療センター産科

Department of Obstetrics, Perinatal Medical Center, Toyota Memorial Hospital

キーワード :

【緒言】
産褥性心筋症(PPCM)は,明らかな心疾患の既往のない健康な女性が妊娠最終月から分娩後5ヵ月までに発症する拡張型心筋症の一亜型である1,2).PPCMは一般的に比較的稀な疾患であると考えられているが,発症した母体の致死率は6から23%であり,早期診断,適切な治療が非常に重要な疾患である.PPCMの診断には心臓超音波検査(UCG)が最も有用であり,左室駆出率の低下,左房・左室の拡大など左心機能障害の所見が認められる.PPCMの危険因子としては年齢,多産婦,妊娠高血圧症候群(PIH),多胎妊娠,長期の子宮収縮抑制剤使用,黒色人種などが知られている1,2).しかし,PPCMの発症に関わる要因や機序は未だ明らかではなく,発症の予測に関しても有効な方法は検討されていない.
【目的】
今回我々はPPCMの発症が予測可能か検討するためにPPCMのハイリスク妊娠において血液検査,UCGの評価を分娩前後に行った.また,分娩前のUCGが正常であったにもかかわらず,分娩後に無症候性の左室拡張機能障害を認め,その後PPCMの発症を経時的に観察し得た症例を経験した3).そこで左室拡張機能障害がPPCMの前駆状態である可能性を想定し,左室拡張機能に主眼を置いて検討を行った.
【対象と方法】
2007年6月から2008年8月の間に当院で分娩した心疾患のないPPCMのハイリスク妊娠112例を対象とした.PPCMのハイリスク妊娠は40歳以上の高齢妊娠,PIH,多胎妊娠,4週間以上の子宮収縮抑制剤(リトドリン塩酸塩)使用とした.分娩後8日以内にハイリスク妊娠に対してUCGを施行し,更に112例中60例には分娩前にも同様の検査を施行した.左室収縮機能の指標として左室駆出分画(LVEF)を用い,50%未満を左室収縮機能障害と定義した.左室拡張機能の指標として拡張早期僧帽弁血流速度/僧帽弁輪速度比(E/E’)を用い,15以上を左室拡張機能障害とし,左室拡張機能障害の有無によるPPCMの発症率について検討した.
【結果】
ハイリスク妊娠からのPPCMの発症率は5.4%(112例中6例)であった.PPCMを発症した6例の危険因子はPIHが4例,双胎妊娠が2例であり,全て分娩後に発症しており,5例は分娩後8日以内に発症した.分娩後8日以内にE/E’が測定されていた100例中15例に左室拡張機能障害を認め,このうち3例がPPCMを発症した.一方,左室拡張機能障害を認めなかった85例中PPCMを発症したのは2例であり,有意差を認めた.(P=0.025)
【結論】
PPCMの早期診断,発症予測のためには,PPCMのハイリスク妊娠に対して分娩後早期にUCGを施行することが重要である.PPCMのハイリスク妊娠としては多胎妊娠,軽症を含むPIHが重要である.UCGの施行時期については分娩後早期が望ましく,LVEFが50%未満もしくはE/E’が15以上の症例は症状があればすぐに,症状がなくても分娩後8日以内に循環器科による精査が勧められる.分娩後のUCGではPPCMの診断のためにLVEFの測定は勿論のことであるが,LVEFが正常であったとしてもE/E’の上昇を認めた場合,その後にPPCMを発症する危険性が高く,厳重にUCGで経過観察を行う必要がある.
【参考文献】
1)Elkayam U, Akhter MW, Singh H, et al: Pregnancy-associated cardiomyopathy clinical characteristics and a comparison between early and late presentation. Circulation111:2050-2055, 2005
2)Sliwa K, Fett J, Elkayam U: Peripartum cardiomyopathy. Lancet.368:687-693, 2006
3)成田 智,佐原香穂里,加藤直美,他:心エコーによるフォローアップ中に産褥性心筋症を発症した1例.超音波医 36:221,2009