Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
消化器:その他

(S511)

体外式超音波検査が診断に有用であったメッケル憩室の一例

Sonographic diagnosis of Meckel’s diverticulum.-report of a case

齋藤 あい1, 畠 二郎2, 今村 裕志2, 眞部 紀明2, 筒井 英明3, 石井 学3, 鎌田 智有3, 楠 裕明3, 山下 直人3, 春間 賢3

Ai SAITO1, Jiro HATA2, Hiroshi IMAMURA2, Noriaki MANABE2, Hideaki TSUTSUI3, Manabu ISHII3, Tomoari KAMATA3, Hiroaki KUSUNOKI3, Naoto YAMASHITA3, Ken HARUMA3

1川崎医科大学消化器外科, 2川崎医科大学検査診断学, 3川崎医科大学内科食道胃腸科

1Digestive organ surgery, Kawasaki Medical School, 2The Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medecine, Kawasaki Medical School, 3Division of Gastroenterology, Dept. of Internal Medecine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
メッケル憩室症は人口の約2%に認められ,比較的頻度の高い消化管奇形である.大半は無症状に経過するものの,時に消化管出血,腸重積,憩室炎などの重篤な合併症が経験される.しかしながらその発症は小児期に多いことなどもあり術前診断は必ずしも容易ではない.そこで体外式超音波により診断された本症の1例を報告する.
【症例】
1歳,女児
【主訴】
下血
【現病歴】
200X年8月,下血を認め近医にて経過観察していた.約2週間に合計3回の下血と貧血の進行を認めたため,当院小児外科を紹介受診した.
【入院時現症】
眼瞼結膜に貧血あり.腹部は平坦軟で圧痛なし.
【血液生化学所見】
赤血球数366万/μl,Hb 7.0 g/dlと小球性貧血を認めるほか,異常所見を認めなかった.
【体外式超音波所見】
使用機種は東芝社製SSA-700A,探触子は7および8MHzリニアプローブである.回腸に連続して,径約1.5cm程度の層構造を有する憩室エコーを認め,内腔は相互に交通していた.付着側はやや腸間膜寄りと思われたが,憩室は腸間膜により包囲されてはいなかった.回腸壁と憩室は粘膜から固有筋層まで全層の共有を認めた.第2層ならびに第3層はやや浮腫状に描出され,中心部には潰瘍を示唆する欠損が見られた.
【メッケルシンチ所見】
腹部正中付近にhot spotが認められ,異所性胃粘膜への集積が疑われた.
【臨床経過】
以上の所見よりメッケル憩室と診断し,腹腔鏡下メッケル切除術を施行.術後下血や貧血の進行は消失し経過良好にて退院となった.
【病理所見】
メッケル憩室は20×18×8mm大であり,回腸末端から口側約40cmの所に存在し,やや腸間膜側よりに付着を認めた.憩室壁は粘膜,粘膜筋板,粘膜下層,固有筋層,漿膜下組織の各層から構成され,粘膜の大部分では胃底腺,幽門腺類似の固有腺が認められ,異所性胃粘膜を有していた.また,憩室の一部には筋層に達する潰瘍形成ならびに炎症細胞浸潤,繊維化が認められた.
【考察】
メッケル憩室は胎生期の卵黄管の遺残による真性憩室であり,回腸末端から20〜100cmの腸間膜対側に存在する.メッケル憩室の超音波像は,過去にもいくつか報告されており,①肥厚した粘膜を持つ円筒状の小腸様に描出され②片側が盲端であること③蠕動がなく腸内容の通過が見られない,などとされている.機器が著しく改良された現在,さらに層構造や憩室の付着部位の評価などの詳細な観察が他疾患との鑑別に重要と思われた.最も鑑別困難な疾患として重複腸管が挙げられるが,例外はあるものの付着部位以外に明らかな相違点はないと考えられる.
【結論】
体外式超音波により診断したメッケル憩室出血の1例を経験した.本症例の超音波像は①内腔が回腸に連続し突出する憩室②粘膜層から固有筋層までを回腸壁と共有③憩室の粘膜〜粘膜下層の浮腫,④中心部の潰瘍と思われる壁欠損,⑤憩室周囲を腸間膜が包囲していない,などであった. 下血を来たす小児疾患は,しばしば外科的治療を必要とする一方で侵襲的検査が施行困難なこともありその術前診断は必ずしも容易ではない.腹部超音波検査は小児に対し非侵襲的に消化管出血の原因検索が可能であり,積極的に試みられるべきである.