Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
消化器:消化管

(S507)

胃巨大神経鞘腫の一例

Large gastric schwannoma: a case report

和田 郁雄, 三浦 洋菜, 野村 幸世, 神保 敬一, 布部 創也, 福田 俊, 畑尾 史彦, 安部 仁, 清水 伸幸, 瀬戸 泰之

Ikuo WADA, Hirona MIURA, Sachiyo NOMURA, Keiichi JIMBO, Soya NUNOBE, Shun FUKUDA, Fumihiko HATAO, Hitoshi ABE, Nobuyuki SHIMIZU, Yasuyuki SETO

東京大学医学部附属病院消化管外科

Department of Gastrointestinal Surgery, The University of Tokyo

キーワード :

【目的】
胃神経鞘腫は胃原発腫瘍の中で比較的まれな疾患である.腫瘍が正常粘膜に覆われる粘膜下腫瘍の形態をとるため,CTや超音波内視鏡(EUS)が診断に用いられる.特にEUSはCTと比較して小さな腫瘍でもその発生,占拠部位や内部性状の観察に優れており,質的診断に有用である.今回我々は,悪性が強く疑われた神経鞘腫を経験したので,報告する.
【症例】
症例は67歳女性.特に自覚症状はなかったが,検診にて腹腔内腫瘤を指摘され,精査目的に当院を受診した.CT所見では,胃体下部背側の胃壁外に14.4x9.0cm大の辺縁整で境界明瞭な腫瘍を認めた.腫瘍内には造影効果のある充実成分,多房性嚢胞状構造が混在していた.腫瘍の内部からは太い静脈が流出し,胃大網静脈への連続していた.胃壁から左胃動脈,腹腔動脈左側,総肝動脈周囲に結節を認め,播種もしくはリンパ節転移が疑われた.EUSでは,胃体部後壁に境界明瞭な腫瘍を認めた.腫瘍は胃壁第4層からの連続性が認められ,その内部エコーは不均一ではあるが第4層とほぼ同様の低エコーを示した.また,一部に嚢胞性変化を伴っていた.大弯側リンパ節は著明に腫大していた.以上により,GISTや神経鞘腫など筋層由来の腫瘍でリンパ節転移を伴うと診断され,胃局所切除,リンパ節サンプリングが施行された.術後経過は良好で,2PODより経口摂取開始,11PODに退院となった.病理所見では,腫瘍は16x11x9.5cm大の線維性被膜で被われた腫瘍で,割面は白色調充実性で分葉状を呈し,筋層と連続していた.内部には嚢胞状の変性や出血が認められた.組織学的には紡錘形細胞が束状・渦巻状に増殖し,nuclear palisadingや不明瞭ながらVerocay body様の構造が観察された.免疫染色では腫瘍細胞は核と胞体にS-100が陽性を示し,神経鞘腫と診断された.胃の筋層との連続性が認められ,胃壁内の神経から発生したものと考えられた.核分裂像はほとんど認められなかった.リンパ節にはリンパ濾胞形成が認められるのみで悪性所見はなかった.術後1年後のCTでは腫瘍の遺残・再発を認めなかった.
【考察】
全胃腫瘍に対する胃神経鞘腫の割合は0.1-0.2%とされ,非上皮性良性腫瘍の中ではGISTについで多い.胃神経鞘腫は主として胃壁筋層のAuerbach神経叢から発生するとされ,EUSでは胃壁第4層との連続性を認めることが多い.良性のものでは内部エコーは均一で低エコーなものが多いが,5-10%に悪性例が存在し,径10cm以上,結節分葉状,内部不均一,無エコー域の存在が超音波検査での悪性所見とされている.また,悪性例のうち約1割にリンパ節転移を生じるとされるため,悪性が疑われる場合,リンパ節の切除も欠かすことはできない.本例は,超音波検査上の悪性基準をすべて満たす所見を認め,さらに胃所属リンパ節腫大を認めたが,病理結果では腫瘍の核異型や核分裂像に乏しく,またリンパ節転移も認めず,組織学的悪性所見に乏しかった.ただし,組織学的に良性と診断された胃神経鞘腫のうち,2.7%に転移を生じたとの報告もあり,組織学的悪性像と臨床的悪性像とは必ずしも一致しないと考えられている.切除後の経過観察が必要であると思われる.
【結論】
胃神経鞘腫は胃原発腫瘍の中で比較的まれな疾患であるため,良悪性の診断基準が未だ確立されていない.今回我々はEUS所見にて悪性が強く疑われたが,組織学的にも臨床的にも良性と判断された神経鞘腫を経験し,有意義な症例であると考えられるため報告した.