Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
消化器:腫瘍・症例

(S504)

脾臓のsclerosing angiomatoid nodular transformation(SANT)の一例

Sclerosing Angiomatoid Nodular Transformation(SANT)of the Spleen:A Case Report

武輪 恵1, 平井 都始子2, 丸上 永晃2, 山下 奈美子2, 吉田 美鈴2, 建石 真理子2, 伊藤 高広1, 森田 剛平3, 高 済峯4, 大石 元2

Megumi TAKEWA1, Toshiko HIRAI2, Nagaaki MARUGAMI2, Namiko YAMASHITA2, Misuzu YOSHIDA2, Mariko TATEISHI2, Takahiro ITOH1, Kohei MORITA3, Saiho KO4, Hajime OHISHI2

1奈良県立医科大学放射線科, 2奈良県立医科大学中央内視鏡超音波部, 3奈良県立医科大学病理部, 4奈良県立奈良病院外科

1Deptartment of Radiology, Nara Medical University, 2Department of Endoscopy and Ultrasound, Nara Medical University, 3Department of Pathology, Nara Medical University, 4Department of Surgery, Nara Prefectural Nara Hospital

キーワード :

【はじめに】
SANTは2004年Martelらにより病理学的に独立した疾患と認識されるようになった脾臓の良性の非腫瘍性血管性腫瘤で,これまで30例程度の報告がある.今回私たちは,手術により病理組織学的にSANTと診断された症例を経験し,術前のソナゾイド造影超音波所見と病理組織像との対比を行い,診断に有用な知見が得られたので報告する.
【症例】
50歳代,女性.
【主訴】
特になし.
【現病歴】
2009年7月,検診時の胸部単純写真で肺に異常陰影を指摘された.精査のCTで,肺野に異常はなかったが,脾臓に5cm大,肝に1cm大の腫瘤性病変を指摘され,肝脾病変精査のため,同年8月に当院受診となった.
【CT所見】
脾腫瘤は単純CTで内部やや不均一な低吸収を示した.造影早期相で著明な濃染は認めず,後期から遅延相で辺縁優位に徐々に濃染し,中央の低吸収域以外は脾実質と同程度の濃染を示した.
【MRI所見】
脾腫瘤は,T2強調像で不均一な低信号を示した.T1強調像・T2強調像ともに点状無信号域が中心域に散在していた.SPIO造影後にはわずかな信号低下がみられ,造影剤の取り込みが示唆された.
【ソナゾイド造影超音波所見】
Bモードで,脾門部に突出する境界明瞭分葉状の腫瘤を認めた.内部は不均一な軽度低エコーを示し,カラードプラ法で比較的豊富なカラー表示を認めた.造影超音波の機種はLogic E9,4Cプローブを用いソナゾイド0.01ml/㎏体重をボーラス注入し,amplitude modulation法で観察した.MI値0.2.造影早期に脾臓実質よりは弱いものの,辺縁優位に濃染を認めた.造影10〜20分後でも,腫瘤内部への造影剤の取り込みを認めた.肝腫瘤は,Bモードでは高エコー,造影2分後,12分後ともに肝実質と等エコーを示した.
【画像所見のまとめと術前診断】
脾腫瘤は中央部と辺縁部とで優位な組織が異なる不均一な構造の充実性腫瘤と考えられた.造影CTでは一見乏血性のようにみえるが,造影超音波所見から比較的血流に富むと考えられた.また,造影超音波とMRI所見から網内系細胞を有し,一部に出血を伴っていると考えられた.以上の画像所見から,第一に脾臓炎症性偽腫瘍を考えた.尚,肝腫瘤は血管腫と診断した.
【経過および病理診断】
2009年10月に腹腔鏡下脾臓摘出術が施行された.脾下極に腫瘤が突出し,表面は脾組織で覆われていた.割面像で腫瘤は境界明瞭,赤褐色を示す複数の血管腫様の小結節が辺縁部優位にみられ,中央部には放射状の線維性間質を認めた.病理組織像では,軽度の慢性炎症性細胞浸潤を有する紡錘細胞の増生を背景に,線維組織により結節状に隔壁された毛細血管の増生が散見された.一部には出血やヘモジデリン沈着を認め,SANT と診断された.
【考察】
SANTは,病理組織学的には線維性間質内の多数の血管腫様の結節から成る.線維性間質内には,へモジデリンを貪食したマクロファージが含まれている.CTでは脾実質自体の濃染が強いため,腫瘤の早期濃染が一見弱く,乏血性にみえるが,造影超音波像では,血管相で辺縁部優位な濃染が明瞭に描出でき,血流に富む腫瘤であることが確認できた.脾臓の血管性腫瘤として血管肉腫などの悪性腫瘍との鑑別が問題となるが,造影後10〜20分後でも腫瘤内に造影剤の取り込みがみられたことから,腫瘤内の網内系細胞の存在が示唆され,悪性腫瘍の可能性の除外が可能であった.
【結論】
SANTの診断において,ソナゾイド造影超音波検査は,病変が多血性であることおよび網内系細胞の存在を示唆することができ,有用と考えられた.