Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
消化器:肝臓

(S499)

肝静脈血栓を伴った肝膿瘍の一例

A case of liver abscess with hepatic venous thrombus

小丹 まゆみ1, 大嶋 聡子1, 長沼 裕子2, 藤盛 修成2, 石田 秀明3, 渡部 多佳子3, 高橋 直人4, 大山 葉子5, 伊藤 恵子6

Mayumi KOTAN1, Satoko OSHIMA1, Hiroko NAGANUMA2, Shusei FUJIMORI2, Hideaki ISHIDA3, Takako WATANABE3, Naoto TAKAHASHI4, Youko OHYAMA5, Keiko ITOU6

1市立横手病院臨床検査科, 2市立横手病院内科, 3秋田赤十字病院超音波センター, 4秋田大学医学部第三内科, 5秋田組合総合病院臨床検査科, 6仙北組合総合病院臨床検査科

1Medical Laboratory, Yokote Municipal Hospital, 2Internal Medicine, Yokote Municipal Hospital, 3Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 4Third Internal Medicine, Akita University School of Medicine, 5Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, 6Medical Laboratory, Senboku Kumiai General Hospital

キーワード :

【はじめに】
US,造影USが診断および経過観察に有用であった肝膿瘍に肝静脈血栓を合併した一例を経験したので報告する.使用装置:日立社製EUB8500.
【症例】
80歳代男性.既往歴は40歳代時に胆嚢炎,虫垂炎.高血圧,糖尿病で近医通院していた.現病歴は,昼食後より,発熱,倦怠感出現し,近医受診.高血糖,白血球増多を認め,当院紹介受診した.体温39.3℃,肺雑音は認めず.血液検査ではCRP21.07mg/dl,白血球25.5×103/μl,血小板数1093×103/μl,血糖値515mg/dl,尿素窒素42.9mg/dlと高値で炎症所見と脱水を認めた.USで肝右葉前下区域に約4×4.5cmの境界不明療で内部エコー不均一な低エコー腫瘤を認めた.腫瘤に接した中肝静脈内に大きさ約3×0.8cm,楕円状,等エコーで,心臓に向かう肝静脈の流れに従ってゆらゆらと動いている血栓を確認した.脾臓は長径で12cmと脾腫を認めた.カラードプラ法で,肝腫瘤には血流は認めず,中肝静脈では血栓の周りを心臓に向かう血流を認めた.血栓の部位は肝静脈の血流が最高流速45cm/secと速くなっていたが,通常みられる3相波の波形であった.肝内肝外の門脈に異常は認めなかった.造影USを,pulse inversion法を用い,MI値0.25-0.3,造影剤はソナゾイドを用いて行った.血管相で腫瘤辺縁と,内部が大きな網目状に染影されたが,血管相,後血管相を通じて全く染影されない部位があり,肝膿瘍と考えられた.肝静脈の血栓も染影されなかった.腹部CT所見では単純で辺縁不整な低吸収域,造影で腫瘤辺縁および内部の大きな網目状の染まりがみられ,CT上も肝膿瘍が考えられた.CTでは中肝静脈内の血栓は明らかではなかった.肝膿瘍とそれによる中肝静脈血栓と診断,膿瘍の中枢側にあり,ドレナージ血管のようにも考えられる位置の中肝静脈に血栓があることより,経皮的肝膿瘍ドレナージは血栓を遊離させて塞栓の原因になる可能性も考えられたため,選択せず,血糖コントロール,補液,抗生剤治療をした.30日後の経過観察では肝膿瘍は1.5×2cmと縮小し,血栓も退縮し,動きも見られなくなっていた.造影USでも血管相での不染領域は消失し,周囲と同様の染影を認め,後血管相ではやや周囲よりも染影不良な部位が約1.5cmの大きさで残存していた.肝内に他の腫瘍性病変は認めなかった.経過観察中のUSで盲腸に壁肥厚を認め,腫瘍と考えられ,下部内視鏡でバウヒン弁対側にBorrmann2型の進行癌を確認した.肝膿瘍が軽快したため,回盲部切除施行した.肝膿瘍軽快後も,盲腸癌切除後も,血小板数の増多があまり軽快せず持続し,血液検査,骨髄穿刺などの結果,本態性血小板血症と診断され,内服治療,点滴治療で外来経過観察中である.
【まとめ】
肝膿瘍に血栓を伴った報告は,アメーバー性肝膿瘍が多いが,細菌性肝膿瘍の報告も散見する.我々の経験した症例では,糖尿病が肝膿瘍の一因として考えられ,さらに本態性血小板血症を合併していたことで,血栓ができやすい状態にあったと考えられた.血栓が小さく限局しており,さらに膿瘍の中枢側に血栓があり,静脈の血流にのってゆらゆらと浮遊する様子が確認でき,穿刺およびドレナージは血栓を遊離させる危惧があるということで,治療方針を決める上で有用な情報を提供した.盲腸癌も同時に合併していたが,造影USの所見より,転移性肝腫瘍や腫瘍栓との鑑別が可能であった.肝静脈血栓を伴った肝膿瘍の診断,経過観察にUS,造影USが有用であった.