Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例2

(S492)

拡張期性心機能不全を呈した心Fabry病の一女性例

A female case of cardiac Fabry disease showing diastolic heart failure

藤田 圭二1, 福田 信夫3, 福田 大和2, 森下 智文2, 横井 靖世1, 田村 禎通2

Keiji FUJITA1, Nobuo FUKUDA3, Yamoto FUKUDA2, Satofumi MORISHITA2, Yasuyo YOKOI1, Yoshiyuki TAMURA2

1独立行政法人国立病院機構善通寺病院臨床検査科, 2独立行政法人国立病院機構善通寺病院循環器科, 3独立行政法人国立病院機構善通寺病院臨床研究部

1Medical Laboratory, National Hospital Organization Zentsuji Hospital, 2Department of Cardiology, National Hospital Organization Zentsuji Hospital, 3Department of Clinical Research, National Hospital Organization Zentsuji Hospital

キーワード :

【はじめに】
Fabry病はX染色体劣性の代謝異常症で,多臓器障害をみる古典的Fabry病と心障害のみの心Fabry病に大別される.本疾患はα-galactosidase A(α-gal A)の活性低下により,α-gal Aの基質であるスフィンゴ糖脂質が全身に蓄積することによって発症する.心Fabry病では心筋細胞へのスフィンゴ糖脂質の蓄積による左室壁肥大が主症状で,初期は肥大型心筋症様の病態を呈するが,病期とともに拡張相肥大型心筋症様の病態へ進行し,心不全や致死性不整脈をきたす.本症は40歳以降の男性に発症することが多く,女性例の報告は比較的少ない.今回,拡張期性心機能不全を呈した心Fabry病の一女性例を経験したので報告する.
【症例】
52歳,女性.
【主訴】
息切れ.
【既往歴】
特記事項なし.
【現病歴】
平成15年5月に健診で心拡大と心電図異常を指摘され,精査目的で紹介された.最近,軽度の労作時息切れあり.
【現症】
脈拍56/分,整,血圧146/88mmHg,心雑音および肺ラ音を聴取せず,頸静脈怒張なし,肝腫大なし,下肢浮腫なし.
【血液データ】
末梢血:WBC 3,100/ul(分画異常なし),RBC 355万/ul,Hb 9.6 g/dl,Plt 22.7万/ul,血液生化学:GOT 27 IU/l,GPT 18 IU/l,LDH 266 IU/l,CPK 145 IU/l,TP 7.6 g/dl,Alb 4.5 g/dl,蛋白分画異常なし.CRP 0.1 mg/dl,血漿BNP 245 pg/ml.甲状腺機能:異常なし.尿検査:異常なし.
【心電図所見】
心拍数 50 /分の洞性徐脈で,Ⅲ,V5,V6に陰性T波を認めた.
【胸部X線写真】
CTR 54%と心陰影はやや拡大し,左4弓の軽度突出を認めた.
【心エコー所見】
IVSth 11.5 mm, PWth 11.5 mmとdiffuse LVH傾向を認めた.LVDd 50 mm, EF 62 %と左室駆出率はほぼ正常に保たれていた.LAD 46 mmと軽度左房拡大を認めた.僧帽弁前尖エコーに高位F点と拡張中期波を認めた.左室流入血流速波形(LVIF)はE 1.05 m/sec, A 0.52 m/sec, E/A=2.02, E-DcT=200 msecであったが,僧帽弁輪移動速度(E’=8.0 cm/sec)のやや低下,E/E’=13.1,心尖拍動図A/H比=25 %と高値より,LVIFは偽正常化パターンと考えられた.
【冠動脈造影】
有意狭窄なし.
【診断】
本例は高血圧の程度に比し拡張不全が強く,血漿BNP値が高いことから,二次性心筋症を疑って精査を行うも原因は不明であった.その後,詳細な病歴聴取により,弟がFabry病の診断で酵素補充療法を受けていること,および息子がFabry病と診断されていることが判明した.α-gal A活性を測定し22.8 AgalIU(cut off値<20.0 AgalIU)と低値であり,心Fabry病と診断した.
【考察】
Fabry病はX染色体劣性遺伝のため通常男性にみられ,女性は無症状あるいは有症状でも軽症と考えられていた.しかし近年,女性保因者でもα-gal A活性を持つ細胞と持たない細胞の比率に個人差が生じ,無症状から重症例まで多彩となることが判明した.本例はFabry病濃厚家系で左室拡張機能障害が強いこともあり,現在,酵素補充療法を実施している.
【結語】
拡張期性心機能不全を呈した心Fabry病の一女性例を経験した.原因不明の心肥大例では女性でも心Fabry病を念頭に置く必要があると考えられた.