Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例2

(S491)

右房内腫瘤の一例

Right atrial mass:case report

浅川 雅子1, 宇野 漢成3, 小野寺 一義2, 竹中 克3, 石谷 晴信2, 上野 克仁4, 樋口 和彦4, 高橋 利之1

Masako ASAKAWA1, Kansei UNO3, Kazuyoshi ONODERA2, Katsu TAKENAKA3, Harunobu ISHITANI2, Katsuhito UENO4, Kazuhiko HIGUCHI4, Toshiyuki TAKAHASHI1

1JR東京総合病院循環器内科, 2JR東京総合病院臨床検査科, 3東京大学医学部付属病院検査部, 4JR東京総合病院心臓血管外科

1Department of Cardiology, JR Tokyo General Hospital, 2Department of Clinical Labolatory, JR Tokyo General Hospital, 3Department of Clinical Labolatory, University of Tokyo Hospital, 4Department of Cardiovascular Surgery, JR Tokyo General Hospital

キーワード :

【症例】59歳男性
【既往歴】特になし
【家族歴】父 骨肉腫
【生活歴】喫煙20歳から59歳まで
【現病歴】生来健康.2009年9月顔面浮腫を自覚し,前医受診.造影CTにて右房内に腫瘤性病変を認め,血栓の可能性を考え,ワルファリンが開始された.CT,MRI,心エコーなどの検査結果より,上大静脈から右房にかけて存在する腫瘤と診断された.心膜液の細胞診では悪性所見はなく,心カテーテル検査で冠動脈有意狭窄は認めなかった.セカンドオピニオンおよび加療目的に当院に紹介となった.
【身体所見】身長160cm,体重62kg,血圧150/90mmHg,脈拍90/min整.頸静脈怒張(右>左)あり.過剰心音,心雑音聴取せず.下腿浮腫なし.
【入院後経過】入院時検査では,LDL177,CRP1.57,腫瘍マーカー(AFP,CEA,CA19-9,SCC,ProGRP,CYFRA)陰性,抗カルジオリオピン抗体陰性,ループスアンチコアグラントは正常だった.BNP50.1,FDP17と軽度上昇していたがD-dimer 0.55と正常範囲内だった.入院時心電図は洞調律,心拍数92/分,前医入院中および当院転入院後に発作性心房細動を認めたが,前医入院以前には指摘されたことがない.CTR47%,胸水・肺うっ血なし.当院での経胸壁心エコー検査では,LVDd40mm,LVDs34mm,LA26mm,心室中隔は奇異性運動のため,EF33%と算出された.三尖弁逆流シグナルはなく,推定右室圧の計測は不能だった.エコーフリースペースは消失しており,右房内異常影の描出はきわめて困難だった.経食道心エコー検査では,上大静脈から右房へ進展する腫瘤を認めた.上大静脈の右房入口部では腫瘤により狭窄ジェットを認めた.三尖弁の開閉は保たれ,心房中隔への腫瘤の進展は認めず.左心耳流出血流速度は50cm/s以上,両房ともモヤモヤエコーは認めなかった.他の画像診断とあわせて,心臓腫瘤の鑑別診断として,粘液腫,転移性腫瘍,悪性リンパ腫,血管肉腫,血栓などがあげられたが,前医でのPETでは異常集積を認めず,悪性腫瘍の可能性は低いと考えた.
前医より抗凝固療法が開始され,顔面浮腫がやや軽快したものの,画像上腫瘤の縮小を認めなかったため,右房内腫瘍摘出術を施行した.手術所見:右房内の自由壁に付着した腫瘤を切除し,迅速診断にて悪性所見なく,上大静脈に続く腫瘤も切除し,閉胸した.
病理所見:器質化した線維組織(櫛状筋の萎縮・器質化を伴い器質化血栓がもっとも考えられる).
【考察】心房内血栓と心房細動の関係は周知で,特に左房内血栓形成は日常よく遭遇する.一方,右房血栓と心房細動または発作性心房細動との頻度を明らかにした論文は少ない.本症例では,心エコー所見でもモヤモヤエコーや左心耳流速低下などの心房血栓形成危険因子は認めず,心房細動が血栓の成因とは断定しがたかった.さらに,右房は常時静脈還流による渦流にさらされており,血流停滞は生じにくいと考えられる.現在までに報告にある右房血栓の多くは異物留置による血栓や深部静脈血栓症からの移動血栓である.本症例は,心房内血栓発生素因の明らかでない,生来健康な男性の右房に発生した器質化血栓の貴重な症例と考え,報告した.