Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般ポスター
基礎:基礎

(S468)

新しいポルフィリン誘導体DEG-Mn-DP-Hを用いた癌の超音波力学療法

Anticancer effect of sonodynamic therapy with a novel porphyrin derivative, DEG-Mn-DP-H

水流 弘文1, 2, 芝口 浩智2, 乗富 智明1, 黒木 政秀2, 山下 裕一1

Hirofumi TSURU1, 2, Hirotomo SHIBAGUCHI2, Tomoaki NORITOMI1, Masahide KUROKI2, Yuichi YAMASHITA1

1福岡大学医学部消化器外科, 2福岡大学医学部生化学教室

1Dept. Gastroenterol. Surg., Faclt. Med., Fukuoka Univ., 2Dept. Biochem., Faclt. Med., Fukuoka Univ.

キーワード :

【背景・目的】
がん治療における三大療法は,外科療法,化学療法ならびに放射線療法であるが,これらはいずれも高い治療効果は認めるものの,侵襲的であることや強い副作用のために治療の中断を余儀なくされることもしばしばである.非侵襲的ながん治療を考えたとき,超音波検査に用いられるような低出力な超音波の応用は極めて有望と考えられる.新しい癌治療法の一つである光線力学療法には,光の組織深達度が低いために深部臓器の癌には有効性が低いことや,副作用として起こる光線過敏症のため光感受性物質が体外に排出されるまでの間を暗室で過ごさなければならず患者に苦痛を与えるなどの問題点がある.一方,光線力学療法に用いられる光感受性物質の多くは,超音波照射でも励起されて活性酸素を生じ癌細胞に障害を与えることができるため,光よりも組織深達度が高い超音波療法にも利用されはじめている.しかし光線過敏症の問題は残されたままであり,光感受性の低い超音波感受性物質の開発が望まれている.今回我々は,新しいポルフィリン誘導体DEG-Mn-DP-Hを用いた癌の超音波力学療法の有用性をin vitroおよびin vivoにおいて検討した.
【方法】
In vitro:ヒト胃癌細胞株のMKN-74細胞を用いて,ハロゲンランプを光源として6,000 luxで5分間の光照射を,Sonitron 1000にて1 MHz,1.0 W/cm2,10% duty cycleの条件下で1分間の超音波照射をそれぞれ行った.MKN-74細胞を,5μMのDEG-Mn-DP-Hまたは光感受性物質の一つであるATX-70の存在下,PBS溶液に浮遊させ,光あるいは超音波を照射した.照射後,MTT assayにより細胞の生存率を計測し,比較検討した.活性酸素のスカベンジャーであるヒスチジン,マンニトール,N-アセチルシステインを用いて,生成される活性酸素の同定を行った.また,フローサイトメトリーでアポトーシスおよび細胞膜構成脂質の酸化の有無を検討した.In vivo:SCIDマウスにMKN-74細胞を皮下注射し,腫瘍径が約7 mmになるまで発育させた後,DEG-Mn-DP-Hを静脈内投与し,10分後に超音波を1 MHz,2.0 W/cm2,50% duty cycleの条件下で10分間照射した.同様の処置を週3回,2週間で計6回行い,約30日間腫瘍径を計測して腫瘍増殖抑制効果の検討を行った.また,組織切片を作成し,病理組織学的検討も行った.
【結果】
In vitroにおいて,DEG-Mn-DP-HはATX-70と比較して光感受性が極めて低いにも関わらず,超音波照射により有意な抗腫瘍効果を認めた.超音波照射によりヒドロキシラジカルが生成されることが示唆され,細胞膜構成脂質の酸化も確認されたが,超音波照射直後ではアポトーシスは検出されなかった.In vivoにおいても,DEG-Mn-DP-H投与群は未治療群と比較して有意に腫瘍増殖が抑制された.病理組織学的には,腫瘍内にネクローシスによるものと思われる空洞形成を認め,アポトーシスを起こしている細胞はごくわずかであった.
【まとめ】
以上の結果より,新しいポルフィリン誘導体DEG-Mn-DP-Hは,光線過敏症などの副作用を起こすことなく体深部の腫瘍にも用いることができる,癌の超音波力学療法における有用な超音波感受性物質であることが示唆された.