Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
腎・泌尿器:腎・尿路

(S443)

手術非適応腎癌に対する分子標的治療薬の超音波ドプラ法による治療効果の評価への試み

Evaluation of therapeutic effect of inoperable renal cell carcinoma by SORAFENIB using Doppler US technique. 2 case study.

大口 郁子1, 伊藤 裕美1, 佐野 誉志1, 尾上 篤志3, 秋山 隆弘2

Ikuko OHGUCHI1, Hiromi ITOU1, Yoji SANO1, Atsushi ONOUE3, Takahiro AKIYAMA2

1医療法人温心会堺温心会病院中央検査部, 2医療法人温心会堺温心会病院泌尿器科, 3医療法人恒進會恒進會病院腎臓病センター 超音波室

1Clinical Laboratory, sakai onshinkai Hospital, 2Urologu, sakai onshinkai Hospital, 3kidney disease center, Koushinkai Hospital

キーワード :

【はじめに】
2008年1月に泌尿器領域における分子標的治療薬が,根治切除不能又は転移した腎細胞癌に対する適応が承認された.分子標的治療薬による治療効果の指標としてX線CT検査が選択されるが,今回我々は手術非適応腎癌の高齢患者に対して分子標的治療薬ソラフェニブによる治療効果の評価の補助として超音波ドプラ法を実施した.
【症例1】
77歳,男性,平成16年に膀胱癌を指摘され経尿道的膀胱切除術を施行.手術後,腎機能の経過観察及び高血圧の治療中であったが,自己都合により中断され放置.平成21年7月に左側腹部痛の為内科受診.血液検査にて軽度の貧血と高度腎機能低下を認めた.造影CT検査を行ったところ早期相で濃染され腎細胞癌が疑われた.超音波Bモードでも左腎中極外側に充実性腫瘍が確認されたが,カラードプラでは血流シグナルは腎実質を含めほとんど描出されなかった.ソナゾイド造影超音波では,腫瘍部と腎実質の染まり方がほぼ同じの血流豊富な腫瘍として見られCT所見も含め腎細胞癌と診断された.保存期腎不全であるため手術適応無し.ソラフェニブ内服治療となる.腫瘍サイズは,ソラフェニブ投与前23.0×30.0㎜,投与三ヶ月後では22.8×21.0㎜と著明な腫瘍縮小の経過を認めた.軽度血圧上昇を認めるも発疹及び重篤な高血圧などの副作用はみられなかった.超音波検査では腫瘍内部にわずかに拍動する血流シグナル認めるも非常に乏しく葉間動脈及び腎動脈(腎門部)でのPI値(Pulsatility Index),RI値(Resistive Index)は僅かであるが高値を呈している印象であった.
<症例2>
88歳,女性,原因疾患は不明であるが40年程前に右腎腫瘍にて右腎摘出術施行.平成21年3月から持続的な左季肋部痛が出現した為当院受診となる.腹部単純CT検査にて左腎に腫瘤を認め,腹部MRI検査でも左腎に42.5×38.1㎜の腎細胞癌を疑う腫瘤を認める.超音波Bモードでは腎中下極に壊死様の低エコー伴う腫瘤を認め,ドプラでは腫瘤辺縁から内部に流入する豊富な血流信号を認めた.また,ソナゾイド造影超音波では典型的な腎細胞癌の染まり方とは異なったが,MFIでドプラと同様の血流像が描出された.以上の事から左腎細胞癌と診断された.本症例は単腎,高齢という点から手術適応無しとなった.初期治療としてインターフェロン開始となるが,投与一ヶ月後のCTにて腫瘍径43.5×39.1㎜と増大を認めた為ソラフェニブに変更となる.ソラフェニブ投与一ヶ月後のCTでは腫瘤径33.1×29.3㎜と縮小を認めた.超音波Bモードでは投与前と同様に内部エコーには壊死像が見られた.またドプラでは豊富な血流信号を認めた.パルスドプラ法で葉間動脈及び腎動脈(腎門部)のPI値,RI値は僅かであるが高値を示している印象であった.投与三ヶ月後,副作用による発疹や手足症候群が見られたため休薬となった.
【考察】
症例1,症例2共にソラフェニブ投与後の超音波ドプラ法によってPI値RI値は高値を呈する結果を得た.本症例ではソラフェニブ投与前のPI値,RI値を測定していないので断定は出来ないが,ソラフェニブの薬理作用である血管新生抑制作用により末梢血管抵抗が高くなった可能性がある.超音波ドプラ法はX線検査より非侵襲性であり,血管血流動態も評価が可能である為,今後補助的な評価手段として更に検討を続ける予定である.